ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによる認知機能の改善・その3: NK細胞の役割

出典: Immunity & Ageing 2024, 21, 29

https://link.springer.com/article/10.1186/s12979-024-00436-1

著者: Tingting Su, Haitao Shen, Mengyuan He, Shanshan Yang, Xue Gong, Ce Huang, Liuling Guo, Hao Wang, Shengyu Feng, Taotao Mi, Meili Zhao, Qing Liu, Fengjiao Huo, Jian-Kang Zhu, Jianbo Zhu, Hongbin Li, Hailiang Liu

 

概要: ナチュラルキラー細胞(以下、NK細胞)とは、白血球の中にある細胞です。生まれつき(ナチュラル)殺傷する(キラー)能力を持つので、免疫細胞とも呼ばれます。血液の循環に乗ってNK細胞は全身に行き渡り、癌化した細胞やウィルスに感染した細胞を攻撃して、外敵から身を守ります。今回の研究では、加齢に伴う記憶機能の衰えをケルセチンが抑制することが示され、付随するNK細胞の役割が解明されました。

10月齢の中年マウス10匹を2グループに分け、片方にはケルセチン1 mg/kgを2日置に尾に注射し、もう片方の5匹にはケルセチンを投与しませんでした。30日間の投与期間が終了した後に、新奇探索試験を行いました。その結果、物体に寄った総時間の中で新しい物体が占める割合はケルセチン注射群が68%で、非投与群は42%でした。以前からあった物体と新しい物体とが識別できれば、習性に従って新しい物体に近づく時間が長くなります。従って68%と42%の違いは、ケルセチンが短期間の記憶をより強化したことを意味します。加齢により認知機能が衰えるのは人間もマウスも一緒ですが、ケルセチンの投与で衰えを抑制できました。

冒頭で述べたようにNK細胞は白血球に含まれますので、白血球を作る組織である脾臓に着目しました。脾臓中に占めるNK細胞の割合を比較したところ、ケルセチン注射群が1.7%で、非投与群は1.2%でした。NK細胞は大まかに3種類に分けられます。すなわち、成熟した細胞、未熟の細胞、その中間です。両群のNK細胞の構成を調べました。ケルセチン注射群のNK細胞は、成熟: 42%、未熟: 32%、中間: 17%でした。一方、非投与群では成熟: 33%、未熟: 43%、中間: 14%という結果を得ました。ケルセチンの働きは、NK細胞の数を増やすことと、NK細胞の熟成を促すことの2点であることが実験データから分かりました。そこで、さらなる知見を得るために、若いマウス(2月齢)の構成を調べました。成熟: 41%、未熟: 33%、中間: 15%であり、ケルセチン注射群とほぼ一致しています。よって、ケルセチンの2番目の働きであるNK細胞の熟成とは、10月齢の中年マウスのNK細胞の構成を2月齢の若い状態に戻した事実であると、ここで初めて判明しました。

最後に、NK細胞と認知機能の関係を直接証明する実験を行いました。抗体を用いて、10月齢の中年マウスの体内からNK細胞を除去しました。従って、先程のケルセチン投与の有無を比較した際の非投与群からNK細胞を除去したマウスであると理解できます。同様の条件で新奇探索試験を行った所、先程の非投与群42%の半分以下が新しい物体の占める割合でした。従って、NK細胞を失うと認知機能が極端に低下することが分かりました。

以上の結果は、非常に興味深い示唆を与えます。加齢による認知機能の衰えは逆らえない摂理と考えられていますが、ケルセチンを摂れば維持できます。認知機能に直結しているNK細胞をケルセチンが増やし、しかもその熟成を促してNK細胞の構成が若い状態を保ちました。中年期を迎えたら、ケルセチンを多く含む玉ねぎやリンゴを摂って、若い時と同様の認知機能を維持しましょう。

キーワード: NK細胞、ケルセチン、認知機能、新奇探索試験