ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンはTh17細胞を減少して、歯周炎を軽減する

出典: Regenerative Therapy 2024, 27, 496-505

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352320424000786

著者: Yuanyuan An, Ruoyu Zhao, Wang Liu, Chenxi Wei, Luxin Jin, Mingzhu Zhang, Xiaobin Ren, Hongbing He

 

概要: 歯周炎とは、歯を支えている歯ぐき(歯肉)や骨(歯槽骨)が壊される病気です。初期の歯周炎は歯肉の腫れと出血が特徴ですが、進行した歯周炎では歯と歯肉の間に隙間が生じます。さらに進行すると歯槽骨が破壊されて歯がグラグラ動くようになり、激しい痛みと膿を伴います。今回の研究では、ラットの歯周炎をケルセチンが軽減し、その仕組みが解明されました。

ラット20匹分の上顎の臼歯(きゅうし、奥歯のこと)を糸で縛って、歯周炎を人工的に誘発しました。その後2群に分け、片方の10匹にはケルセチン75 mg/kgを1か月投与し、残りの10匹は非投与群としました。これとは別に、臼歯を縛らないで歯周炎にしないラット10匹を比較にために用意しました。30日後に、歯と歯槽骨との距離を比較しました。正常ラットの0.45 mmに対して、ケルセチン非投与群では1.35 mmになっており、歯肉や歯槽骨が損傷しました。いわゆる「歯がスカスカ」の状態でした。しかし、ケルセチン群では1.05 mmで、正常群には程遠いながらも歯周炎の進行を軽減しました。また、歯周組織(歯・歯肉・歯槽骨をひっくるめた総称)におけるTNF-αという炎症の指標が陽性の細胞は、正常群: 4.5%、非投与群: 23%、ケルセチン群: 8.5%であり、ケルセチンが炎症を抑制していました。歯周「炎」とよばれるように、歯周組織の炎症が特徴ですが、ケルセチンが見事に抑えました。

ところで、歯周炎の原因の一つとしてTh17細胞の活性化が知られています。本来Th17細胞はウィルスに代表する病原体を体外に排除する免疫作用を担いますが、過剰に活性すると自己組織を攻撃するようになります。歯周炎以外では、花粉症やリウマチでもTh17細胞が活性化しています。さて、Th17細胞はIL-17とRORγtという2種類の蛋白質を産出する、固有の性質があります。そこで、歯周組織における発現状況を比較しました。正常ラットの歯周組織ではIL-17陽性とRORγt陽性の細胞の割合が4.5%と2.0%に対して、ケルセチン非投与群は39%と14%という大幅な上昇を計測しました。一方、ケルセチン投与群は15%と7.5%であり、ケルセチンが顕著に低下しています。以上のデータを基に、歯周組織にTh17細胞が占める割合を正常群: 0.56%、非投与群: 1.95%、ケルセチン群: 0.60%と算出しました。ケルセチンがTh17細胞の活性化を抑制した結果、歯周炎の症状を軽減したことが明確になりました。

最後に、ラットの歯周組織で見られた現象を細胞レベルで再現する実験を行いました。CD4+Tという細胞を炎症誘導物質で刺激すると、この外敵に対抗すべく免疫機能を発揮してTh17細胞としての性質を発揮するようになります。このような変化を細胞分化と呼びますが、ケルセチンはCD4+T細胞のTh17細胞への分化を阻害しました。CD4+T細胞に外から刺激を加えた3日後に、IL-17は7倍RORγtは11倍になりましたが、ケルセチンの存在下ではともに2倍で収まりました。従って、ラットで見られたTh17細胞の活性化抑制は、Th17への分化をケルセチンが阻害した結果でした。

キーワード: ケルセチン、歯周炎、Th17細胞、IL-17、RORγt、CD4+T細胞、細胞分化