ケルセチンによる糖尿病性腎症の予防と治療
出典: Molecular Biology Reports 2024, 51, 677
https://link.springer.com/article/10.1007/s11033-024-09617-z
著者: Ashraf Hossein, Gholampour Firouzeh, Karimi Zeinab, Daryabor Gholamreza
概要: 食事で摂取したでんぷんは消化されて糖に変化し、腸で吸収された糖は血液で全身に運ばれます。血中の糖はインスリンという物質により全身の細胞に取込まれて栄養源となりますが、糖尿病になるとインスリンが働かないので、糖は血中に残ります。血液に残った糖は尿と一緒に排出され、糖を含む尿ゆえに糖尿病と呼ばれます。糖尿病で血糖値が上昇すると、全身を回る高濃度の糖が各組織を傷つけます。糖尿病が他の組織もたらした病変を合併症と呼びますが、典型的な合併症が糖尿病性腎症です。今回の研究では、ケルセチンがラットの糖尿病性腎症を予防することが発見されました。
インスリンを作る臓器は脾臓ですので、脾臓毒をラットに飲ませて糖尿病を誘発しました。ラットを4群に分け、以下の処置を行いました。1) 脾臓毒を与えない正常群、2) 脾臓毒のみ飲ませてケルセチン投与なし、3) ケルセチン50 mg/kgを21日間投与した後に脾臓毒、4) 脾臓毒を飲ませた後ケルセチン50 mg/kgを21日間投与。従って、3)はケルセチンの予防効果を調べる条件で、4)では治療効果を調べます。それぞれの血糖値は1) 65 mg/dL、2) 330 mg/dL、3) 65 mg/dL、4) 145 mg/dLと測定され、1)と比べた2)の大幅な上昇は、糖尿病に罹ったことを示します。同時に、3)と4)が示すデータは、ケルセチンによる改善を物語ります。
脾臓毒はラットの腎機能を低下して、糖尿病性腎症を併発しました。健康診断で血液検査する際の評価項目の一つに、血中クレアチニン濃度がありますが、これは腎機能を調べる目的です。クレアチニンは、筋肉が活動した際に生じる老廃物です。全身で作られたクレアチニンは、血液で腎臓に運ばれ尿として排出されます。しかし、腎機能が低下するとクレアチニンが尿に移行しなくなり、血液中に残ります。従って、血中のクレアチニン濃度が高い程、腎機能が低下している指標となります。実験データとして1) 0.62 mg/dL、2) 1.70 mg/dL、3) 0.81 mg/dL、4) 1.21 mg/dLが出され、2)の糖尿病性腎症と、ケルセチンの改善効果が明らかになりました。
次に、より正確な腎機能を調べるべく、クレアチニン・クリアランスを調べました。1分あたりにどれ位のクレアチニンを腎臓が血液から尿に送っているか、いわば腎臓の効率を知る手段です。先程の血中クレアチニン濃度が健康診断の項目なら、そこで異常を認めた時の精密検査で行うのがクレアチニン・クリアランスの測定です。1) 800 μL/分、2) 240 μL/分、3) 590 μL/分、4) 320 μL/分となりました。数字が高い方が、より多くのクレアチニンを送っているので、低い程腎機能が低下しています。
血糖値、血中クレアチニン濃度、クレアチニン・クリアランスに共通する点として、4)に比べて3)の方が1)の正常に近いことが挙げられます。ケルセチンには糖尿病性腎症の予防効果も治療効果もありますが、3)の方がより良好です。従って、予防効果の方が治療効果より優れているのが、ケルセチンの特徴と結論できました。
キーワード: ケルセチン、糖尿病性腎症、腎機能、クレアチニン、予防効果、治療効果