糖転移ルチンは悪玉コレステロールを減少する
出典: Functional Foods in Health and Disease 2024, 14, 222-235
https://ffhdj.com/index.php/ffhd/article/view/1342
著者: Yushi Hashizume, Mahamadou Tandia
概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ルチンがあります。ケルセチンに2個の糖が結合した形です。このルチンを糖を結合させる酵素で処理すると、もう1個糖が増えた糖転移ルチンが得られます。ケルセチンから見れば糖が3個結合した構造ですが、糖の数が増えると水に溶けにくいケルセチンやルチンの性質が変わり、水に溶けやすくなりました。ルチンも糖転移ルチンも摂取した後は、腸で糖部分が切断され、ケルセチンの形で体内に吸収されることが知られています。今回の研究では、ヒト試験において、糖転移ルチンが血中の悪玉コレステロールを減少しました。
悪玉コレステロールの正式名称は「低密度リポ蛋白質」です。また、英語名のlow density lipoproteinの頭文字からLDLとも呼ばれており、以降はLDLで統一します。LDLは肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割があり、コレステロールは水に溶けないため、中性脂肪やリポ蛋白質に包まれて血液中に存在します。LDLは体に重要な働きをしながらも、過剰に存在すると血管の壁にたまって、高血圧や動脈硬化の原因となりますので、悪玉呼ばわりされる理由です。従って、LDLは生活習慣病に関連する監視項目と位置付けられ、健康診断でも必ず測定しています。
血中LDL濃度が120~139 mg/dL(平均値: 130 mg/dL)で、健康な人を被験者として募集しました。LDL濃度の正常値の上限は140 mg/dLと定められおり、それ以上では高コレステロール血症と診断されてしまいます。従って、被験者のLDL値は「正常の範囲ではあるが高め」となり、別の言い方をすれば「健康ながら生活習慣病の一歩手前」と見なせます。被験者56名をランダムに2群に分け、片方の28名を糖転移ルチン摂取群として、1日当たりの量が200 mgとなるように糖転移ルチンを含む錠剤を摂取しました。残る28名は対照群として、糖転移ルチンを含まずに色・大きさ・形では見分けがつかない錠剤を摂取しました。
12週間の摂取期間が終了した後に血液検査を行い、血中LDL濃度を調べました。糖転移ルチン摂取群の平均値は122.6 mg/dLで、対照群の平均値は138.3 mg/dLでした。血中LDL濃度120~139 mg/dL(平均値: 130 mg/dL)という被験者に求められた条件は、摂取期間前の値です。よって、糖転移ルチン摂取群の血中LDL濃度は7.4 mg/dL下がり、対照群は8.3 mg/dL上がったことになり、15.7 mg/dLの差がつきました。得られたデータを統計的に処理すると、95%以上の確率で糖転移ルチン摂取群の方が優れていることが分かりました。
特に注意したいのは、対照群の平均値が、正常と異常を分ける140 mg/dLに近い138.3 mg/dLとなった点です。摂取期間前は正常の範囲ではあるが高めだった血中LDL濃度が、12週間後には異常値になってしまった被験者も存在する筈です。これが生活習慣病の所以であり、一歩手前に人が同じ習慣を続ける限り発症リスクが高まります。今回の結果は、LDLが正常の範囲ではあるが高めの人が糖転移ルチンを摂取すると、高コレステロール血症の発症リスクを低くしたと結論できます。
キーワード: 糖転移ルチン、悪玉コレステロール(LDL)、ヒト試験、生活習慣病