戦争における心的外傷後ストレス障害と認知機能の低下は、ケルセチンが改善する
出典: Ageing and Longevity 2024, 5, 84-90
https://aging-longevity.org.ua/journal-description/article/view/130
著者: Valeri Shatilo, Svitlana Naskalova, Ivanna Antoniuk-Shcheglova, Olena Bondarenko
概要: 2022年の2月に始まったロシア-ウクライナ戦争ですが、未だに終結の目途が立ちません。国連人権事務局の発表によりますと、1万人を超えるウクライナの民間人が殺害されています。戦争下のウクライナで、ケルセチンが戦争のストレスに起因する心的外傷ストレス障害(以下、PTSD)を改善し、かつ認知機能を回復した効果がヒト試験で実証されました。
試験は、ウクライナのキーウ地方に住む40~74歳の女性を被験者として行われました。戦争が起こる前は普通の暮らしをしていたのに、ロシア軍の侵攻によって生活が暗転した人達です。PTSDとは生死にかかわる体験をした後に、不安・不眠・動悸といった反応で日常生活に支障をきたす症状です。従って、戦争はPTSDの典型的な原因に挙げられます。被験者56名をランダムに2群に分け、片方の28名をケルセチン摂取群として、ケルセチン140 mgと酸化鉄30 mgを含む錠剤を1日1錠摂取しました。なお、酸化鉄にはケルセチンの体内吸収をスムーズにする働きがあります。残る28名は対照群として、ケルセチンと酸化鉄を含まずに色・大きさ・形では見分けがつかない錠剤を摂取しました。摂取期間は1か月で、その前後に検査を行いPTSDと認知機能の改善状況を比較しました。
PTSDの検査には、PCL-5という指標を用いました。「そのストレス体験の、心をかき乱すような、望まない記憶を繰り返し思い出す」「何かのきっかけでそのストレス体験を思い出した時、非常に動揺する」「寝つきが悪かったり、睡眠の途中で目が覚めてしまう」のようなPTSDの特徴を問う質問が全部で20個並んでいます。各質問には「全くない」「少し」「中程度」「かなり」「非常に」で回答しますが、それぞれに0~4の点数がつきます。合計点でPTSDの度合を評価しますが、数値が大きい程深刻で、33点以上がPTSDと診断されます。摂取前の合計スコアの平均は、ケルセチン群が30.8±1.8で対照群が30.1±1.8でした。すなわち、正常の上限ギリギリで、PTSDの一歩手前であったことを意味します。1か月の摂取期間後の検査では、ケルセチン群の平均スコアが17.6±1.4で対照群が26.9±1.6でした。ケルセチン群が13.2点改善されたのに対し、対照群では3.2点の改善に留まりました。スコア改善に10点の差があった事実は、ケルセチンの効果を示しています。
一方、認知機能の評価にはモントリオール認知尺度を用いました。以前の連載で述べたように、面談形式で行われる試験です。30点満点で、26点以上が正常、19以下が認知症、20~25点は境界領域である軽度認知障害と診断されます。摂取期間前の合計スコアの平均は、ケルセチン群が25.5±0.5で対照群が25.2±0.4でした。ゆえに、正常と軽度認知障害とのボーダーラインに位置していたと言えます。摂取後は、ケルセチン群が27.1±0.5で対照群が25.4±0.5となりました。対照群では殆ど変化がありませんでしたが、ケルセチン群では正常領域に入って顕著な改善効果がありました。
以上、戦争で初めて分かったのは何とも皮肉ですが、ケルセチンの新たな効果が発見されました。ケルセチンは戦争に起因するPTSDを改善し、認知機能は正常領域に回復しました。戦争は絶対に撲滅すべきですが、万一起きた時には、ケルセチンが人々の心を守ります。
キーワード: ケルセチン、戦争ストレス、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、認知機能、ヒト試験