ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

イソラムネチンは、みみずばれを予防する

出典: Heliyon 2024, 10, e33802

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844024098335

著者: Junzheng Wu, Yajuan Song, Jianzhang Wang, Tong Wang, Liu Yang, Yi Shi, Baoqiang Song, Zhou Yu

 

概要: みみずばれは、正式には肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)と呼ばれ、傷・火傷・手術痕に二次的に発生する皮膚の線維化です。線維組織が過剰に産生された結果、瘢痕(傷跡のこと)が赤く盛り上がるのが、みみずばれの正体です。今回の研究では、ケルセチンが体内で変化して作られるイソラムネチンという物質が、線維組織の形成を抑制してみみずばれを予防することが発見されました。

さて、みみずばれの原因となる線維組織の過剰産生の大元として、TGF-βという蛋白質の働きが知られています。TGF-βの活性化が線維芽細胞の増殖を促し、線維組織の構築につながります。そこで、TGF-βの抑制作用が知られているイソラムネチンに着目しました。

実験は、ヒトのみみずばれから採取した線維芽細胞を用いて行いました。採取した場所から容易に想像できますが、この線維芽細胞は自然に増殖する性質を有しており、何もしなくとも48時間に30%増殖しました。しかし、25 μMの濃度でイソラムネチンを作用すると、増殖率は22%に低下しました。50 μMにおける増殖率は14%、100 μMにおける増殖率は8%となり、イソラムネチンは濃度依存的に線維芽細胞の増殖を抑制しました。増殖の抑制をさらに詳しく調べると、イソラムネチンは線維芽細胞に細胞死を誘導していました。イソラムネチンを作用しないと細胞死は全く見られませんが、25 μMのイソラムネチンの存在下で18%の細胞死が観察されました。50 μMで21%、100 μMで27%と、濃度が上がるにつれ細胞死は増加しました。線維組織を構成する成分は、コラーゲンという物質です。イソラムネチンは、線維芽細胞の増殖を抑制したり細胞死を誘導することに加え、コラーゲンの生成も、濃度依存的に抑制することが分かりました。

一連の線維芽細胞を用いる実験では、イソラムネチンがTGF-βを抑制していました。TGF-βを抑制した結果、線維芽細胞の抑制と細胞死の誘導とラーゲンの生成抑制が明らかになりました。TGF-βを抑制するイソラムネチンに着目して研究を開始しましたが、当初の予想が正しかったことを実験データが如実に示しています。

次に、細胞実験の結果が動物実験で再現できるか、ウサギの耳で確かめました。両耳に直径1 cmの円形の傷をつけた後、左耳の傷には処置を行いませんでした。一方、右耳の傷には100 μMの濃度でイソラムネチンを3日置きに注射しました。35日の処置期間を経ると、顕著な違いとなって現れました。無処置の左耳の傷痕は、断面が7.5 mm2のみみずばれとなり、イソラムネチン処置した右耳の傷痕の断面が3.0 mm2と、未処置の半分に抑えられました。また、傷痕に発現しているTGF-βを測定した結果、右耳では左耳の約6割程度であり、イソラムネチンによるTGF-βの抑制を示唆しています。

キーワード: みみずばれ、肥厚性瘢痕、TGF-β、線維芽細胞、イソラムネチン