ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによるcircHIAT1の発現促進が乳癌に効く・後編

出典: PLoS ONE 2024, 19, e0305612

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0305612

著者: Xiaogang Li, Chao Niu, Guoqiang Yi, Yuan Zhang, Wendi Jin, Zhiping Zhang, Wanfu Zhang, Bo Li

 

前編より続く

概要: パルボシクリブという乳癌の薬があります。2016年にヨーロッパで承認され、翌年には日本でも承認されて以来、今まで治療法がなかった種類の乳癌にも有効性を発揮している画期的な医薬品です。しかし残念なことに、パルボシクリブには耐性ができ易い欠点があります。特にパルボシクリブで寛解(全治ではないが症状が治まった状態で、退院の要件になる)した乳癌が再発すると、しばしば耐性を獲得しており、パルボシクリがもはや効かなくなる事例が報告されています。前編で述べたケルセチンによるcircHIAT1の発現促進は、パルボシクリブ耐性の乳癌にも有効であることが、今回の研究で明らかになりました。

前編の実験で用いたヒト由来乳癌細胞MCF-7ですが、通常の細胞とパルボシクリブ耐性細胞の2種類を用意しました。それぞれのMCF-7に発現しているcircHIAT1の量を調べたところ、通常細胞を1.0としたパルボシクリブ耐性細胞の相対比は0.3でした。前編でcircHIAT1は転移の抑制と深く関連している結論でしたが、パルボシクリブ耐性にも関連していました。すなわち、MCF-7がパルボシクリブ耐性を獲得すると、circHIAT1が減少することが判明しました。

次に、マウス20匹を用意しました。内5匹には通常のMCF-7を注射して、パルボシクリブ耐性でない乳癌のモデルとしました。残る15匹にはパルボシクリブ耐性のMCF-7を注射して、パルボシクリブ耐性の乳癌のモデルとし、さらに3つのグループに分けました。全部で4群になりますが、それぞれの移植細胞と処置は以下の通りです。1) パルボシクリブ非耐性、パルボシクリブのみ投与、2) パルボシクリブ耐性、パルボシクリブのみ投与、3) パルボシクリブ耐性、パルボシクリブ+ケルセチンを投与、4) パルボシクリブ耐性、パルボシクリブ+ケルセチン+ circHIAT1のサイレンシングRNAを投与。薬物投与による処置期間は4週間とし、終了後に各グループの腫瘍組織を取出して、その重さを測りました。結果は1) 0.18 g、2) 0.66 g、3) 0.21 g、4) 0.48 gとなりました。1)と2)を比べると効果の違いは歴然で、非耐性の乳癌ならパルボシクリブで治療できても、耐性を獲得するとお手上げです。しかし、ケルセチンを共投与した3)では、パルボシクリブ耐性の乳癌でも治療できました。一方、circHIAT1が働かない4)では、ケルセチンを以ってしても効果がありませんでした。次に、各グループの腫瘍組織におけるcircHIAT1の発現量を調べました。1) 発現量を1.0とした相対比は2) 0.35、3) 0.82、4) 0.38でした。ここでも前編と同様に、ケルセチンがcircHIAT1の発現を促進して治療効果を発揮しています。

前編と後編を通して、ケルセチンによるcircHIAT1の活性化が、乳癌の2大課題である転移と耐性を克服しようとしています。女性を乳癌から救うのは、ケルセチンに他なりません。

キーワード: 乳癌、転移、耐性、MCF-7、ケルセチン、circHIAT1、パルボシクリブ