ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

パクリタキセルの卵巣癌の治療効果は、ケルセチンと組合せると増強する

出典: iScience 2024, 27, 110434

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004224016596

著者: Huihui Ji, Zihan Zhang, Cheng Chen, Wenbin Xu, Tingxian Liu, Yue Dong, Jiakun Wang, Huihui Wang, Xueqiong Zhu

 

概要: パクリタキセルという癌の薬があります。30年以上に渡って、卵巣癌・肺癌・胃癌を始めとする様々な癌の治療に貢献して来ました。癌に種類で多少の違いはありますが、週に1回、1時間かけて点滴する使用法が一般的です。今回の研究では、パクリタキセルが持つ卵巣癌の治療効果が、ケルセチンによって増強されたことが発見されました。

SKOV3というヒト由来の卵巣癌細胞を培養して、その中にケルセチンを添加すると、48時間後には7%の細胞死が観察されました。一方、パクリタキセルを添加すると、48時間後の細胞死は9%でした。ケルセチンとパクリタキセルを同時に添加すると、SKOV3の細胞死は13%に増えました。

ケルセチンがパクリタキセルとの組合せがSKOV3の細胞死を増強したことが分かったので、次にSKOV3の遊走への影響を調べました。遊走とは、細胞が移動することです。多くの細胞は移動することがなく、従って遊走せずその場所に留まって、それぞれの機能を発揮します。しかし、癌細胞は正常細胞とは違い無限に増殖して、腫瘍組織は拡大を続けます。実際、SKOV3を培養すると、24時間で150個の遊走がありました。ここにケルセチンを添加すると、遊走細胞は60個に減りました。パクリタキセルに添加では65個に減りましたが、両者の組合せで35個という、驚異的な減少が見られました。無限増殖と並ぶ癌のもう一つの特徴は、他の臓器に癌が入り込む「転移」です。この転移の原動力となるのが癌細胞の浸潤です。先程の遊走は広い意味で用いられ、浸潤は遊走に含まれます。浸潤とは、遊走した細胞の中でも、細胞と細胞の隙間に存在する細胞外マトリックスという部位を飛び越えて遊走する現象のことを言います。ちなみに、培養液中で見られたSKOV3の150個の遊走は全て、細胞外マトリックスを越えており浸潤していたことになります。ケルセチンとパクリタキセルは、遊走だけでなく浸潤も減少しました。24時間で浸潤したSKOV3の数は、ケルセチン単独: 49個、パクリタキセル単独: 55個、組合せ: 25個でした。

次に、マウスを用いる実験を行いました。16匹のマウスにSKOV3細胞を移植し、生じた腫瘍組織の体積が50 mm3になった時点で4匹ずつ4群に分けて、以下の処置を行いました。1) 薬物投与なし、2) ケルセチン50 mg/kgを毎日腹腔内投与、3) パクリタキセル15 mg/kgを3日置きに静脈注射、4) 2)と3)の両方を行う。2週間後の腫瘍組織は、1) 800 mm3、2) 280 mm3、3) 270 mm3、4) 120 mm3でした。薬物処置をしていない1)の腫瘍組織は、2週間で50 mm3が16倍の800 mm3になり、これが癌の無限増殖を示しています。ケルセチン、パクリタキセルともに腫瘍組織の拡張を抑えましたが、単独投与時に比べて組合せの大幅な抑制が目立ちました。これは、細胞実験でで見られた組合せによる増強効果を反映しています。従って、マウスの体内でもパクリタキセルの抗癌効果が、ケルセチンによって増強されました。

キーワード: 卵巣癌、パクリタキセル、ケルセチン、SKOV3、細胞死、遊走、浸潤