ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンを含むリンゴは、ケルセチンの体内吸収も高める

出典: Food Science and Biotechnology 2024, 33, in press

https://link.springer.com/article/10.1007/s10068-024-01657-2

著者: Kunihisa Iwai, Toshio Norikura

 

概要: この連載で述べているように、間違いなくケルセチンは健康に良い素材です。では、ケルセチンが実用化されないのは何故でしょうか?全てはケルセチンの吸収性の低さです。食事でケルセチンを摂取しても、吸収されるのは一部であり、多くが吸収されずに排泄されてしまうためです。世界中の科学者が、ケルセチンの吸収性を高めるべく日夜努力しています。今回の研究では、食物繊維がケルセチンの体内吸収に及ぼす影響が検証され、リンゴに含まれるペクチンが良好な結果でした。

ラット12匹を6匹ずつ2群に分けました。片方はケルセチン0.2%とペクチン5%を含む餌を与え、もう片方はケルセチン0.2%とセルロース5%を含む餌としました。セルロースは、ペクチンと並ぶ代表的な食物繊維です。条件の違いはペクチンとセルロースだけで、それ以外はケルセチンの含量も含めて全く一緒です。毎日午前9時から午後5時までの8時間、餌と飲料水を飼育箱に入れて、自由に飲食できる状態にしました。7日間継続した後の餌の減り具合は、ペクチンとセルロースとで差はありませんでした。消費した餌からケルセチンの1日当たりの摂取量は、ペクチン群: 125.0 mg/kg、セルロース群: 126.2 mg/kgと計算されました。同じ量のケルセチンを摂取したので、吸収の違いはペクチンとセルロースの違いが反映されます。

毎日午後5時に尾から採血を行い、ケルセチンの濃度を分析しました。その日の給餌時間が終了した時点でのケルセチン濃度を比較して、吸収の違いを調べました。なお、腸から吸収された後のケルセチンの一部はイソラムネチンという物質に変化するので、ケルセチンとイソラムネチンを合計した濃度を測りました。1日目の濃度は、両群ともに40 μMで差がありませんでしたが、2日目はペクチン群: 55 μM、セルロース群: 40 μMで差がつき始めました。4日目となるとペクチン群: 95 μM、セルロース群: 65 μMで差が広がり、最終日の7日目ではペクチン群: 135 μM、セルロース群: 90 μMとなり、同じ摂取量でも血中濃度は決定的な差となって現れました。

血中濃度の次に尿中濃度を調べました。一般に腸で吸収された物質は、血液で全身に運ばれた後、腎臓で血液から尿が作られた際に尿に移行して排出されます。従って、血中濃度と並んで尿中濃度も、吸収性を知る重要なデータです。ケルセチンの場合はやや複雑で、尿排出の際には血中では見られなかったタマリキセチンという物質への変化もありました。よって、ケルセチン・イソラムネチン・タマリキセチンの3種類の合計濃度を測定しました。両群は別々の飼育箱ですので、それぞれの飼育箱にたまった尿を、その日の尿として濃度を調べました。2日目はペクチン群: 1.8%、セルロース群: 0.7%、4日目はペクチン群: 3.7%、セルロース群: 1.5%、7日目はペクチン群: 5.3%、セルロース群: 1.9%、と時間の経過につれて差が開くのは血中濃度と一緒でした。

以上の結果、食物繊維がケルセチンの体内吸収に及ぼす影響として、ペクチンはセルロースと比べてケルセチンの吸収を大幅に向上しました。リンゴはケルセチンだけでなく、ペクチンも豊富に含みますので、ケルセチンの吸収性の低さはリンゴが解決したと言えます。もしかすると、リンゴは人類の健康にとって最強の食べ物かも知れません。

キーワード: リンゴ、ケルセチン、体内吸収、ペクチン、セルロース、血中濃度、尿中濃度