ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

敗血症性心筋症におけるケルセチンの有効性

出典: Cardiovascular Toxicology 2024, 24, 1116–1124

https://link.springer.com/article/10.1007/s12012-024-09901-1

著者: Fang Guan, Hongsen Du, Jike Li, He Ren, Aiqiao Dong

 

概要: 敗血症とは、細菌やウィルスに感染した際に体が反応して、制御が不可能で命にかかわる臓器不全の総称です。敗血症によって心臓を構成する筋肉である心筋が働らかない状態であれば、敗血症性心筋症と呼ばれます。今回の研究では、心筋細胞にてケルセチンが、敗血症性心筋症に特徴的な挙動を減少したことが発見されました。

AC16というヒト由来の心筋細胞に4 μg/mLの濃度でカビ毒を添加して、敗血症性心筋症で起こる状態を細胞レベルで再現しました。24時間後には約半数のAC16細胞が死滅して、生存率が50%となりました。カビ毒と同時にケルセチンを濃度を変えて添加して、生存率への影響を調べました。15 μMのケルセチンでは、24時間後の生存率が75%に改善されました。濃度が30 μMの時の生存率は80%に向上し、45 μMでは90%でした。ケルセチンは濃度依存的に生存率を改善したので、カビ毒を大量に吸い込んだ時に懸念される敗血症性心筋症にケルセチンが効く可能性を示唆しています。

次に、敗血症性心筋症になるとAC16細胞がどう変化するかを調べました。敗血症性心筋症の患者さんから採取したAC16細胞と、健康な人から採取した同細胞を比べました。両者の明確な違いは、ALOX5という蛋白質の発現にありました。すなわち、敗血症性心筋症にかかると、ALOX5の発現が健康時の2~4倍になっていました。先程の実験ではカビ毒でAC16を刺激しましたが、その時のALOX5の発現は正常の2.5倍で、まさに敗血症性心筋症と同じことが起きていました。また、ケルセチンを加えた時には、15 μM: 1.8倍、15 μM: 1.5倍、15 μM: 1.1倍とケルセチン濃度が増すに従って、ALOX5の発現が低減しました。

ALOX5の挙動をさらに深堀りすべく、遺伝子操作でALOX5が発現しないAC16細胞を作りました。このAC16細胞をカビ毒で刺激しても、24時間後の生存率は80~90%でした。先程の実験ではカビ毒が生存率を50%にした所を、ケルセチンが75~90%に改善しましたが、ALOX5の発現を止めたらケルセチンと同様の効果を得ています。しかも、ケルセチンがALOX5を減らすことも判明しているので、両者は密接に関係していました。最後に、ALOX5が過剰発現しているAC16細胞を作り、ケルセチンの影響を調べました。過剰発現したALOX5は、ケルセチンを以ってしても減らすことが困難で、生存率は50%のまま改善出来ませんでした。

以上の結果、敗血症性心筋症に特徴的な挙動である心筋細胞におけるALOX5の発現は、ケルセチンが低減しました。カビ毒が低下した心筋細胞の生存率を回復した事実は、ケルセチンが敗血症性心筋症の治療薬となる可能性を秘めており、今後の展開が楽しみです。

キーワード: 敗血症性心筋症、ケルセチン、心筋細胞、AC16、ALOX5