糖尿病におけるケルセチンの多臓器保護作用
出典: Frontiers in Medicine 2024, 11, 1442071
https://www.frontiersin.org/journals/medicine/articles/10.3389/fmed.2024.1442071/full
著者: Zhiqun Guo, Jingyu Zhang, Mianxin Li, Zengwei Xing, Xi Li, Jiaqi Qing, Yuan Zhang, Lemei Zhu, Mingxu Qi, Xuemin Zou
概要: 食事で摂取したでんぷんは消化されて糖に変わりますが、その糖は腸で吸収された後、血液で運ばれて栄養源になります。糖尿病は、糖が栄養源として使われずに血中に残る病気です。その結果、使われない糖が尿と一緒に排出されるので、糖尿病と呼ばれる所以です。過剰の糖は、活性酸素種という老化や病気の原因になる物質を盛んに作ります。厄介なことに、過剰の糖は血液中にあって全身を回るため、全身に悪さをする可能性があります。今回の研究では、人工的に糖尿病したラットにケルセチンを投与した結果、肝臓・腎臓・脾臓の損傷と機能不全が回復しました。
GKラットという自然に糖尿病を発症するラットがあります。12週齢で空腹時血糖値が10 mmol/Lあり、正常なラットが5 mmol/Lの2倍です。この時点で、血糖値が高めで糖尿病の兆候が見られます。8週間後の20週齢になると、一方的に差が開きました。正常ラットは7 mmol/Lでほぼ横ばいでしたが、GKラットは17 mmol/Lと右肩上がりです。GKラットの12~20週齢の時期にケルセチン75 mg/kgを毎日投与すると、20週齢の空腹時血糖値は8 mmol/Lであり、正常とほぼ同じレベルでした。時間の経過と共に糖尿病が悪化するGKラットであっても、ケルセチンを投与すれば正常と変わらない状態が実現しました。
典型的な糖尿病の症状である空腹時血糖値をケルセチンが改善したので、糖尿病による肝臓の影響を次に調べました。20週齢におけるGKラットの肝臓は脂肪の蓄積が目立ち、肝機能の指標である血中のALTとASTが大幅に上昇していました。しかし、ケルセチンを投与すると脂肪が大幅に減少し、肝機能も改善されました。例えば測定されたALT値は、正常ラット: 35.71 U/L、ケルセチンを投与しない20週齢GKラット: 101.16 U/L、ケルセチンを投与した20週齢GKラット: 43.14 U/Lですので、いかにケルセチンが肝機能を改善したか、よく分かります。
ケルセチンがどのような働きをしたのか、肝組織で起きた変化を詳しく調べました。その結果、正常ラットに比べてケルセチン非投与のGKラットでは、オートファジーという現象が阻害されました。しかし、ケルセチン投与群では、オートファジーが正常ラット以上に増えていました。非投与群の肝臓ではオートファジーを促進する物質が正常ラットの約60%でしたが、ケルセチン投与群では1.7倍でした。オートファジーのオートは自動のオートで、「自ら」を意味します。オートファジーのファジーには「食べる」という意味があり、オートファジーは「自食作用」としばしば訳されます。自ら食べる対象は肝臓を構成する細胞内で糖尿病によって傷つけられた蛋白質で、形が変化した異常蛋白質を分解することが、オートファジーです。肝臓と同様に、腎臓と脾臓でもケルセチンがオートファジーを活性化していました。
冒頭で述べたとおり、糖尿病は全身に悪さをする可能性があります。しかし、ケルセチンは全身の各組織でオートファジーを促進して対抗するため、複数の臓器で損傷を改善して機能を回復しました。
キーワード: 糖尿病、GKラット、ケルセチン、肝機能、オートファジー