ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンで不育症を克服できる可能性

出典: The Kaohsiung Journal of Medical Sciences 2024, 40, 903-915

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/kjm2.12887

著者: Dan Wang, Xin-Rui Zhao, Yi-Fan Li, Rui-Lin Wang, Xue-Bing Li, Chun-Xia Wang, Yong-Wei Li

 

概要: 不育症とは、妊娠はしても、死産や流産を2回以上繰り返して赤ちゃんが得られない状態です。不育症の特徴として、妊娠時に子宮に形成される胎盤が機能しなくなります。栄養膜細胞と呼ばれる胎盤の機能を担う細胞が不活性化するためです。今回の研究では、ケルセチンが栄養膜細胞を活性化することと、その仕組みが解明されました。

まず、不育症の患者さん28名から採取した血液と、健康な人18名から採取した血液を調べました。両者を分けた大きな違いは、miR-149-3pという生体物質でした。不育症になるとmiR-149-3pが健常者の2~4倍に増えていました。古来、中国では15種類の生薬から成る煎じ薬で不育症を治療していましたが、その主成分がケルセチンであると最近判明しています。これにヒントを得て、栄養膜細胞にケルセチンを作用させる実験を行いました。驚くべきことに、1 μMの濃度のケルセチンを添加した栄養膜細胞は、miR-149-3pが添加前の0.4倍でした。2 μMに濃度を上げると、さらに半減して、添加前の0.2倍となりました。ケルセチンには、不育症で上昇するmiR-149-3pを減少する働きかあることが、初めて分かりました。

多くの細胞は所定の場所に留まって機能を発揮しますが、例外もあり栄養膜細胞と癌細胞は、他の場所に移動します。細胞が移動することを遊走(ゆうそう)と呼びますが、癌の性質は増殖と転移ですので癌細胞が盛んに遊走するのは容易に想像できます。一方、栄養膜細胞の遊走は、母体の血流の維持に必要とされています。先程と同様に、ケルセチンの濃度を変えて栄養膜細胞の遊走への影響を調べました。その結果、1 μMのケルセチンは添加前の2倍に遊走数を増やし、2 μMでは遊走が2.5倍になりました。

2つの実験から、ケルセチンは栄養膜細胞に存在するmiR-149-3pを減少することと、遊走を増やすことが分かりました。そこで、miR-149-3pと遊走との関係を調べる実験を、次に行いました。栄養膜細胞に、miR-149-3pの活性化剤と阻害剤を別個に添加した際の、遊走への影響を調べます。活性化剤でmiR-149-3pの働きを促進した栄養膜細胞は、遊走が抑制されて元の60~70%程度になりました。一方、阻害剤でmiR-149-3pの働きを抑えると、ケルセチンと同様に遊走が2~2.5倍に増えました。さらに、先程の2番目の実験で2 μMのケルセチンが遊走を2.5倍にした所へmiR-149-3p活性化剤を加えると、遊走は一気に減少しました。

以上の結果、miR-149-3pと遊走との関係が明らかになりました。すなわち、栄養膜細胞においてケルセチンは、miR-149-3pを減少した結果、遊走を加速しました。冒頭に述べたように、不育症ではmiR-149-3pが上昇します。これを減少するケルセチンには、不育症の治療薬としての可能性が期待できます。まだ細胞レベルでの知見ではありますが、今後の展開が非常に楽しみです。

キーワード: 不育症、ケルセチン、栄養膜細胞、miR-149-3p、遊走