ケルセチンがメタボリックシンドロームを改善する仕組み・前編
出典: Gut Microbes 2024, 16, 2390136
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2024.2390136
著者: Xiaoqiang Zhu, Xiaojuan Dai, Lijun Zhao, Jing Li, Yanhong Zhu, Wenjuan He, Xinlei Guan, Tao Wu, Li Liu, Hongping Song, Liang Lei
概要: メタボリックシンドローム(以下、MS)とは、ウエスト周囲長が85 cm以上の男性・90 cm以上の女性が、血糖・脂質・血圧の3項目のうち2つ以上が基準値を上回る状態です。世界中の成人の約三分の一がMSであると言われ、心筋梗塞・脳梗塞・大腸癌などの危険信号であるため、予防や治療が大切です。今回の研究では、ケルセチンがMSを改善することと、その仕組みが解明されました。
化学物質で人工的にMSにした体重が100 gのマウス12匹を、6匹ずつ2群に分けました。片方のA群には毎日50 mg/kgのケルセチンを投与し、もう片方のB群には投与しないで比較対照としました。これとは別に、体重が100 gで正常のマウスC群も6匹用意しました。6週間後の体重は、A群: 122 g、B群: 138 g、C群: 103 gでした。正常では殆ど体重が変化しないにもかかわらずMSでは右肩上がりに上昇しますが、ケルセチンの投与で体重の上昇が抑制できました。6週間後のウエスト周囲長はA群: 8.8 cm、B群: 9.8 cm、C群: 8.2 cmで、ケルセチンによる減少を認めました。空腹時血糖値はA群: 7.5 mM、B群: 9.8 mM、C群: 6.1 mMで、血中総コレステロールはA群: 3.0 mM、B群: 3.5 mM、C群: 2.5 mMで、血中中性脂肪はA群: 1.45 mM、B群: 1.59 mM、C群: 1.25 mMでした。よって、血圧(そもそも測定していないようです)を除くMSの診断項目全てをケルセチンが改善しました。
MSは体が産生する熱量と深く関連しています。食品には〇〇カロリーと熱量が表示されていますが、食べた分の熱量(エネルギー)が体に取込まれます。その一部は、活動に使われ、また一部は熱となって体から放出されます。そして余った熱量は脂肪の形で体に貯まり、多過ぎるとMSになります。ゆえにMSを防ぐには、十分に運動して摂取した熱量を消費するのが一番ですが、熱産生の項目も見逃がせません。熱産生が減少すれば、余る熱量が増えますので、MSに近づきます。実際、それぞれのマウスに熱量計を着けて、1時間あたりに体から発散される熱量を測ったところ、A群: 1050カロリー、B群: 550カロリー、C群: 1400カロリーでした。MSの根本原因とも言える熱産生の異常も、ケルセチンが改善したことが分かりました。
さて、熱産生を担うのは、褐色脂肪組織という組織です。各マウスの褐色脂肪組織を調べたところ、熱産生に関与するUCP1という蛋白質の発現は、A群: 50 ng/L、B群: 27 ng/L、C群: 68 ng/Lでした。脂肪組織には、褐色脂肪組織と白色脂肪組織の2種類があります。前者が熱産生の中心であるのに対して、後者はMSで増え続けてウエスト周囲長を増大する正体です。ところでUCP1は褐色脂肪組織で役割を果たしますが、白色脂肪組織における発現は、A群: 12 ng/L、B群: 7 ng/L、C群: 14 ng/Lでした。従って、ケルセチンがMSを改善する仕組みとして、褐色脂肪組織の活性化と白色脂肪組織の褐色化による熱産生の促進が明らかになりました。後編に続く
キーワード: メタボリックシンドローム、ケルセチン、熱産生、褐色脂肪組織