ケルセチンがメタボリックシンドロームを改善する仕組み・後編
出典: Gut Microbes 2024, 16, 2390136
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2024.2390136
著者: Xiaoqiang Zhu, Xiaojuan Dai, Lijun Zhao, Jing Li, Yanhong Zhu, Wenjuan He, Xinlei Guan, Tao Wu, Li Liu, Hongping Song, Liang Lei
概要: 人工的にメタボリックシンドローム(MS)にしたマウスでも、ケルセチンを投与すれば熱産生が促進されて、MSが改善されました。ケルセチンは何をもたらしたか、脂肪組織の次は血液を調べました。その結果、胆汁酸が増えていることが分かりました。胆汁酸とは肝臓で作られ、腸における栄養分の吸収を助ける物質ですが、吸収後は血液に移行します。従って、胆汁酸は血液にも存在します。胆汁酸の血中濃度は、A群: 17 μM、B群: 10 μM、C群: 10 μMでした。面白いことに、ケルセチンを投与しない限り、正常とMSとで胆汁酸の濃度は変わりがありません。ケルセチンを投与して初めて増えた事実は、ケルセチンがMSを改善する本質が胆汁酸の増大であると示唆しました。そこで、数多く存在する胆汁酸の種類を詳しく調べました。その結果、非12α水酸化胆汁酸という特定のグループに行き当たりました。A群におけるこのグループの濃度は、B群の約4.4倍でした。胆汁酸全体で1.7倍に増えたのに対して、非12α水酸化胆汁酸だけで4.4倍ですので、このグループの関与がいかに大きいかよく分かります。非12α水酸化胆汁酸が褐色脂肪組織に入ると、熱産生を開始することが知られています。従って、ケルセチンが熱産生を促進してMSを改善した仕組みには、非12α水酸化胆汁酸の増大がありました。
各マウスの腸内細菌叢(腸に生息する細菌類の分布)を調べたところ、乳酸菌の主体であるラクトバチルス属の存在比に顕著な違いが見られました。A群の腸内細菌叢にてラクトバチルス属が占める割合は、B群の約6.7倍でした。乳酸菌はヨーグルトに多く含まれる菌で、腸内を弱酸性に保ち、免疫機能を高めるので、健康に有用とされています。ゆえに、ケルセチンがラクトバチルス属を増大した事実も、MSの改善に関連しているのか気になります。
この疑問を解決すべく、腸内細菌叢の移植で検証しました。簡単に言ってしまえば、糞便を移植する実験です。動物実験の振り出しに戻り、人工的にMSにしたマウス12匹を、6匹ずつ2群に分けました。片方の6匹には、ケルセチンを投与して6週間後のMSが改善されたA群のマウスの糞便を移植しました。もう片方には、非投与でMSのままのB群マウスからの移植です。そして、6週間後にそれぞれの状態を調べました。驚くことに、A群の腸内細菌叢の移植は、ケルセチンの投与と同様の効果が現れました。ケルセチンが示した、体重とウエスト周囲長の減少・空腹時血糖値の低下・血中の総コレステロールと中性脂肪の低減・熱産生の促進・褐色脂肪組織の活性化と白色脂肪組織の褐色化・非12α水酸化胆汁酸の増大、全て同等の結果でした。
従って、ケルセチンは腸内細菌叢を整えて非12α水酸化胆汁酸を増やした結果、熱産生を促進してMSを改善した、と結論できました。
キーワード: メタボリックシンドローム、ケルセチン、非12α水酸化胆汁酸、腸内細菌叢