ケルセチンによる更年期うつの改善
出典: Biomedicine & Pharmacotherapy 2024, 179, 117369
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S075333222401254X
著者: Dan Wang, Ziran Yu, Ranqi Yao, Jingnan Zhang, Wenqi Cui, Jiaohua Dai, Jian Li, Heng Qian, Xiujuan Zhao
概要: 更年期うつとは、更年期障害に含まれる症状の一つで、気分の落ち込みや意欲の低下が見られます。更年期うつに限らず、卵巣における女性ホルモンの分泌低下が更年期障害の原因とされますが、詳しいことは不明な点が多いのが現状です。今回の研究では、ケルセチンが更年期うつに見られるうつ様行動を減少し、その仕組みの一部が解明されました。
卵巣摘出にてラットを女性ホルモンが少ない状態にした上で、さらに予測不可能で慢性的な軽度ストレスを継続して与えてうつを誘発して、更年期うつの状態を再現しました。実際、強制的に水中に放り込みむ実験にて静止時間が140秒で、正常ラットの80秒を大幅に上回りました。正常な状態なら助かろうとして本能的に手足を動かしますが、うつ状態にあると諦めてしまいます。そのため静止している時間が長いほど、うつの状態が深刻です。更年期うつのラットでも、毎日ケルセチン50 mg/kgを4週間投与すると、静止時間が110秒に短縮されました。別の実験として、箱にラットを入れて自由に歩かせました。一定時間内の歩行距離は、正常: 2.8 m、更年期うつ: 1.9 m、ケルセチンを投与した更年期うつ: 2.3 mでした。うつ状態で不安感があると壁に張り付き、歩行距離が短くなりますので、ケルセチンによるうつの改善効果を示しています。
次に、各ラットの血液を調べました。更年期うつのラットでは、正常に比べてNALという物質が極端に減少していましたが、ケルセチンを投与すると回復を認めました。面白いことに、NALが減少すると、水中に放りこんだ際の静止時間が長くなる逆相関関係がありました。また、NALの減少につれて、歩行距離が短くなる相関関係もありました。従って、血中のNALはうつのバロメーターと言えます。ところでNALとは、アセチルH3K9という蛋白質の分解物です。そこで、NALに分解する前のアセチルH3K9が似た挙動を示す場所として、脳の視床下部という部位に行き当たりました。
視床下部におけるアセチルH3K9の発現量を正常ラットを1.0とした時の相対量は、更年期うつのラットで0.45に低下していましたが、ケルセチンの投与で0.75に回復して、分解物である血中NALの挙動を反映していました。また、視床下部においてアセチルH3K9に発現と連動して、GPX4という蛋白質の増減が明らかになりました。GPX4には、フェロトーシスと呼ばれる細胞死を抑制する働きがあります。フェロトーシスとは脂質の酸化と細胞の中心である核の崩壊が特徴ですが、更年期うつの視床下部を電子顕微鏡で観察したところ、フェロトーシスと判断されました。視床下部においてGPX4が減少しましたが、その分フェロトーシスが増えることを意味します。以上の結果、更年期うつの本質は女性ホルモンの減少による、視床下部におけるアセチルH3K9とGPX4の減少であり、フェロトーシスの誘導でした。ケルセチンの投与でフェロトーシスに歯止めがかかり、うつ様行動が改善され、静止時間の短縮と歩行距離の延長が観察されました。
キーワード: 更年期うつ、ケルセチン、アセチルH3K9、視床下部、GPX4、フェロトーシス