ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

高血圧患者のケルセチン摂取は、腎障害の発症リスクを低減して生存率を延ばす

出典: Phytotherapy Research 2024, 38, 5376-5388

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ptr.8306

著者: Yawei Zheng, Yuan Fang, Li Li, Huihui Wang, Siqi Zhang, Yuan Zhu, Yating Wang, Xianze Meng, Zhen Fang, Yu Luo, Zhuyuan Fang

 

概要: 世界に19億人の高血圧患者がいると推定されています。世界人口が70億人ですので、5人に1人が高血圧という恐ろしい現実です。慢性腎臓病の主原因は、高血圧と言われています。人工透析が必要な末期腎不全の患者の3割が、高血圧も発症しています。このように、高血圧と腎障害とは深い関係にあります。今回の研究では、高血圧患者がケルセチンを摂取すると、腎障害の発症リスクが低減することが示されました。

米国全国健康栄養調査という、アメリカの保健省が毎年調査している、米国民の総合的な栄養状態のデータがあります。栄養士が面接を行い、前日の食事の内容を聞き取って、各栄養成分の摂取量が記録されます。同時に、心身の健康状態に関する情報も記録されます。ちなみに、同じような調査は日本でも実施されています。2007~2008年にかけて収集したデータの他、2009~2010年と2017~2018年の分も加えて、計3回分の調査内容を解析しました。全部で29,940人分のデータがありましたが、18歳以上で高血圧患者は7,713人でした。この中からケルセチンに関する情報がないデータと、腎臓の状態が分からないデータを除外した、5,801人分のデータを調べました。従って、対象となる5,801人全員が、18歳以上の高血圧患者であり、ケルセチンの摂取状況が明確で、腎臓の状態も明確です。

5,801人の内、腎障害のない人は3,939人で、腎障害を発症した人が1,862人でした。1日あたりのケルセチンの平均摂取量は、全体: 10.48±9.76 mg、腎障害なし: 10.85±9.87 mg、腎障害発症者: 9.71±9.19 mgであり、明らかな違いがありました。どうやら、ケルセチンの摂取量と腎障害の発症には関係がありそうです。そこで、詳細な統計処理が行われました。5,801人全体の平均摂取量10.48±9.76 mgを基準として、それより多いグループと、少ないグループに分けました。それぞれのグループにいる腎障害の発症者の人数を調べました。その結果、ケルセチンの1日摂取量が平均より少ないグループの発症者数を1とした時、多いグループにおける発症確率は0.92でした。この数値はオッズ比と呼ばれ、ある事象(ここでは腎障害の発症です)が起こる確率を2つのグループ間で比較する際に汎用されます。従ってオッズ比0.92とは、高血圧患者がケルセチンを1日10 mg以上摂取すると、腎障害の発症確率が10 mg以下の0.92倍になったことを意味します。言い換えれば、高血圧患者における腎障害発症のリスクが8%低減しました。

次に、5,801人分のデータの122か月に渡る追跡調査を行いました。先程対象とした事象は腎障害の発症でしたが、今度は死亡を対象事象として、同様の統計処理を行いました。その結果、オッズ比0.91と算出され、高血圧患者がケルセチンを1日10 mg以上摂取すると、122か月間における死亡リスクを9%低減しました。

以上の結果、高血圧患者のケルセチン摂取は、腎障害発症のリスクを低減し、生存率を延ばすと結論しました。冒頭に述べたように5人に1人は高血圧です。不幸にして高血圧になってしまったら、玉ねぎやリンゴなどケルセチンを多く含む食物をふんだんに食べて、長生きして下さい。

キーワード: 高血圧、ケルセチン、腎障害、米国全国健康栄養調査、オッズ比