ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンの働きに見る、癌とメタボリックシンドロームとの意外な共通点

出典: Heliyon 2024, 10, e 37518

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844024135499

著者: Xiao-jiao Wang, Peng Zhang, Ling Chen

 

概要: メタボリックシンドロームにてケルセチンがコレステロールを減少することは、よく知られています。特に高血圧や動脈硬化の原因となる悪玉コレステロール(以下、LDL)を減少するため、ケルセチンは生活習慣病の治療や予防に有効です。今回の研究では、ケルセチンは癌細胞においても悪玉コレステロールを減少することが見出されました。その結果、抗癌剤の効きが向上して、癌とメタボリックシンドロームとの意外な共通点が浮き彫りになりました。

CAL-27という癌細胞に、濃度を変えてケルセチンを作用しました。40~120 μMの濃度ではこの癌細胞が死滅することはなく、生存率100%を保ちました。160 μMあたりで弱い抗癌活性がようやく見え始め、24時間後の生存率は90%となり、200 μMでは70%でした。面白いことに、抗癌活性を示さない40~120 μMの領域であっても、ケルセチンはこの癌細胞中のLDLを減少しました。ケルセチンを投与しない時のCAL-27細胞中のLDL量を1.0とした時の相対比は、40 μM: 0.85、80 μM: 0.6、120 μM: 0.4となり、濃度が高くなるにつれLDL量が減少しました。次に、シスプラチンという広く汎用されている抗癌剤を用いて、ケルセチンの影響を調べました。まず、シスプラチンがCAL-27細胞の生存率を50%にする濃度は、13.5 μMと測定されました。これにケルセチンを加えた時の影響を調べました。まず、ケルセチンを40 μMで加えたCAL-27細胞は、シスプラチンを10 μMの濃度で加えた時に生存率が50%となりました。ケルセチン不添加時と比べて、シスプラチン濃度が13.5→10 μMに下がりました。濃度が低いと、それだけ少ないシスプラチンの量で癌細胞を半減できますので、シスプラチンの効きが良くなりました。同様に、ケルセチンの濃度を80および120 μMに変えた時に、CAL-27の半減に要したシスプラチン濃度は、7.5および6.0 μMでした。従って、ケルセチン濃度が高くなると、抗癌剤であるシスプラチンの効きが良くなりました。

CAL-27細胞におけるケルセチンの挙動が明らかになったので、シスプラチンが全く効かなくなった、すなわちシスプラチン耐性のCAL-27に、ケルセチンを投与しました。ケルセチンによって、AGR2という遺伝子の発現が11倍低下しました。ケルセチンが低下したAGR2とは、LDLを作らせる遺伝子として知られています。

そこで、AGR2が過剰発現したCAL-27細胞を用いて、再びケルセチンの挙動を調べました。ケルセチンを80 μMの濃度で投与しました。まずLDLの減少ですが、先程のAGR2が過剰発現していない時は1.0→0.6の減少でしたが、今度は1.0→0.8でした。半減に要するシスプラチン濃度は、13.5→7.5 μMが先程のデータで、AGR2の過剰発現によって13.5→12.0 μMに変わりました。LDLの減少・シスプラチンの効き共に喪われてはいないものの、弱められました。AGR2はケルセチンが減少しますが、過剰発現しているとケルセチンはより多くの働きを強いられ、結果は悪くなります。

ケルセチンは癌細胞においてもLDLを減少し、その根底にはLDLを作る遺伝子であるAGR2の減少がありました。癌細胞のメタボリックシンドロームを解消することで、シスプラチンの効きが良くなりました。

キーワード: ケルセチン、悪玉コレステロール(LDL)、癌細胞、CAL-27、シスプラチン、AGR2、メタボリックシンドローム