ケルセチンによる副鼻腔炎の治療
出典: Molecular Biotechnology 2024, 66, in press
https://link.springer.com/article/10.1007/s12033-024-01269-5
著者: Lingzhao Meng, Xiaopeng Qu, Pengyu Tao, Jiajia Dong, Rui Guo
概要: 副鼻腔炎とは、蓄膿症とも呼ばれ、鼻の周囲にある副鼻腔という空洞部の炎症です。主な原因は細菌やウィルス感染ですが、時には鼻の形態異常や遺伝も関係します。鼻づまりや鼻水が症状ですが、顔面痛や頭痛を伴う場合もあります。重症化すると、鼻ポリープ(別名、鼻茸)という粘膜のふくらみが生じて、鼻の内部に垂れ下がります。今回の研究では、比較的軽症の副鼻腔炎(すなわち鼻ポリープのない場合)にケルセチンが治療効果を示すことが、マウスを用いる動物実験で示されました。
マウスの右鼻に黄色ブドウ球菌という病原菌を含んだスポンジを挿入して、副鼻腔をスポンジで塞いだままの状態にして、副鼻腔炎のモデルとしました。その後4群に分け、1) ケルセチンの投与なし、2) ケルセチン50 mg/kgを毎日投与、3) ケルセチン100 mg/kgの投与、4) ケルセチン200 mg/kgの投与の各処置を3カ月間継続しました。この間にも鼻にスポンジは入れたままにしておきます。これとは別に、黄色ブドウ球菌のスポンジを挿入しないマウスも用意して、比較用の正常群としました。3カ月間の投与期間が終了して、鼻の粘膜組織を比較しました。1)は正常群と比べて、粘膜の炎症が顕著でした。実際、IL-6という炎症誘導物質の量は、正常群の80 pg/mLに対して、1)では200 pg/mLまで上昇していました。しかし、ケルセチンの投与により2) 175 pg/mL、3) 140 pg/mL、4) 105 pg/mLと用量が増えるに従って、炎症は抑制されました。また、30分間にくしゃみをした回数は、正常群: 2回、1) 12回、2) 9回、3) 7回、4) 4回となっており、ケルセチンの用量に応じて減少しました。それぞれのグループによって粘膜組織がどう違うのか詳しく調べた結果、XBP1という蛋白質に行き当たりました。正常群におけるXBP1の量を1とした時の相対比は、1) 2.6、2) 2.3、3) 1.8、4) 1.3というデータが得られました。従って、副鼻腔炎になると上昇し、ケルセチンで炎症やくしゃみが軽減すると減少する、症状を反映した指標と言えそうです。
そこで、副鼻腔炎の患者さんから採取した鼻上皮細胞と、健康な人から採取した鼻上皮細胞を比べました。XBP1の量はマウスの時と同様に、健康な人と患者さんの比率は1:2.4となっていました。従って、ケルセチンがXBP1を減少した事実は、副鼻腔炎の治療として正しい方向性だと分かりました。
次に、XBP1の役割を調べる実験を行いました。XBP1を作らせる遺伝子を組み込んだウィルスと、黄色ブドウ球菌を含むスポンジの両方をマウスの鼻に挿入しました。その後ケルセチン200 mg/kgを投与しました。先程の実験で用量依存的な効果が分かりましたので、今回は最も有効だった用量を採用しました。3か月後、105 pg/mLだった筈のIL-6は180 pg/mLであり、30分間のくしゃみは4回が20回となりました。よって、XBP1が過剰発現しているとケルセチンの治療効果が打消されることが分かりました。
以上の結果、ケルセチンは副鼻腔炎の治療に有効であることが実証され、その仕組みとしてXBP1の低減が提唱されました。
キーワード: 副鼻腔炎、ケルセチン、粘膜炎症、くしゃみ、XBP1、鼻上皮細胞