ケルセチンがアルツハイマー病の大元を止めている可能性
出典: Molecular Neurobiology 2024, 61, in press
https://link.springer.com/article/10.1007/s12035-024-04509-6
著者: Helene Arndt, Mark Bachurski, PingAn Yuanxiang, Katrin Franke, Ludger A. Wessjohann, Michael R. Kreutz, Katarzyna M. Grochowska
概要: アルツハイマー病の患者さんの脳には、老人斑と呼ばれる斑点が見られます。老人斑は、脳神経を損傷して認知機能障害の原因であるアミロイドβ42という蛋白質の塊です。従って、アミロイドβ42はアルツハイマー病の根源ですが、42という数字はアミノ酸が42個つながった蛋白質であることを意味します。最近、アミロイドβ42が分解してアミノ酸が40個に減ったアミロイドβ40が、アミロイドβ42とは違った方法で神経毒となることが分かりました。今回の研究では、このアミロイドβ40の悪さをケルセチンが抑制する事が示されました。
星状膠(せいじょうこう)細胞とは、脳神経の隙間に存在して、神経の構造を維持する細胞です。染色すると星の形を呈するため星状という名がつき、膠とは「にかわ」の意味で接着剤としての役割から来ています。神経を支える重要な星状膠細胞にアミロイドβ40が侵入すると、炎症物質が放出されて周囲の神経に炎症が起こります。神経炎症が悪化するとアルツハイマー病の発症に至ります。そこで、アミロイドβ40の侵入を抑制する物質を探索しました。抗炎症作用を有する61個の植物成分を対象に、評価を行いました。星状膠細胞の培養液にアミロイドβ40と評価対象物質を添加し、さらに16時間培養を継続した後、星状膠細胞を取出します。星状膠細胞を洗浄した後、顕微鏡観察にてアミロイドβ40が付着した部分の数と総面積を算出しました。付着部分が少ない程、アミロイドβ40の侵入を抑制したことになりますが、61個の内、9個に侵入抑制作用を認めました。その中で最も強く抑制したのがケルセチンでした。すなわち、アミロイドβ40の付着数・付着面積ともにケルセチンが最小値を記録しました。また、侵入抑制した9個の内の6個が、似た構造を有するケルセチンの仲間でした。
神経炎症と並ぶアルツハイマー病の特徴に、CREB遮断という現象が挙げられます。CREBとは記憶を担う蛋白質で、遮断されると記憶障害の原因になります。アルツハイマー病の患者さんが家族の顔を忘れてしまうのは、CREB遮断が起きているためです。CREBはそれ自体では記憶に関する働きをせず、リン酸が結合して初めて活性化され機能を発揮します。CREB遮断とは、CREBにリン酸が結合しなくなり不活性体のままの状態です。アミロイドβ40を加えた星状膠細胞では、CREB遮断が起こり、活性体が半分に減りました。ところが、ケルセチンが共存すると、活性化体は元の量を維持しました。ケルセチンはアミロイドβ40の侵入を抑制するから、CREB遮断を改善して当然と思いがちですが、そうではありません。先程の探索実験でケルセチンの次に高い侵入抑制効果を示したアリストラクタム(ケルセチンの仲間ではありません)という物質は、CREB遮断を全く改善しませんでした。よって、2つは互いに関連しないで、別々に働くことが分かりました。
アミロイドβ40の侵入抑制とCREB遮断の改善という独立したケルセチンの作用が、初めて明らかになりました。これらは、アルツハイマー病の大元を止めている可能性を強く示唆します。
キーワード: アルツハイマー病、ケルセチン、アミロイドβ40、星状膠細胞、CREB遮断