ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンとルテオリンとの組合せによる飛躍的な抗癌効果の強化

出典: Pharmacological Research – Modern Chinese Medicine 2024, 12, 100479

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2667142524001210

著者: Yinchuan Wang, Jiacheng Chen, Zhanglong Li, Susu Liu, Yuan Liu, Changyuan Yu, Jiahui Liu, Shihui Wang

 

概要: ルテオリンとはケルセチンの仲間の一つであり、構造や性質が非常に似ています。野菜や果物に多く含まれる点も、ケルセチンと同様です。ケルセチンもルテオリンも癌細胞の増殖を抑制しますが、よく似た性質ゆえ、活性の強さは同程度とされています。今回の研究では、この二つを組合せると、抗癌効果が飛躍的に高まることが発見されました。

実験には、H157というヒトの肺癌細胞を用いました。H157細胞に150 μMの濃度でルテオリンを投与すると40~50%の細胞が死滅しました。80 μMの濃度のケルセチンでも同様に、細胞の死滅は40~50%程度でした。ところが、150 μMのルテオリンと80 μMのケルセチンを同時に投与すると、細胞死は何と88%に達しました。カスパーゼ-3という細胞死の誘導物質の挙動にも着目しました。何も加えない通常時のH157細胞に発現しているカスパーゼ-3の量を1とした、相対比を比較しました。ルテオリンとケルセチンの単独投与時で2.6および4.2であり、それぞれが細胞死を誘導していることの裏付けが取れました。両者の組合せ投与時では、5.4に高まりました。

それでは、ケルセチンとルテオリンを同時投与すると抗癌作用が増強したのは何故でしょうか?この素朴な疑問を解決するために、まずは遺伝子の働きを調査しました。今までの膨大な研究結果を蓄積したデータベースで、肺癌で大きく変化する遺伝子、ケルセチンで大きく変化する遺伝子、ルテオリンで大きく変化する遺伝子をそれぞれ特定し、その共通点を探りました。その結果、肺癌に限らずほとんど全ての癌で活性化しているPI3K/Aktシグナル伝達という現象に行き当たりました。PI3KとAktという、互いに相互作用する2種類の蛋白質があります。両方とも生命を維持する上で無くてはならない存在ですが、癌では変わった挙動を示します。PI3Kにリン酸が結合すると、その結合体をAktが感知して、今度はAktにもリン酸が結合します。Aktのリン酸結合体が癌細胞の増殖を担う蛋白質に結合すると、そのスイッチがオンになります。この一連の動き、すなわちPI3Kのリン酸化に始まり癌細胞増殖蛋白質のスイッチオンに終わるまでを一括りにして、PI3K/Aktシグナル伝達と呼びます。遺伝子解析では、この過程の阻害を予測しました。

次に、遺伝子解析の予測を確かめる実験を行いました。PI3K/Aktシグナル伝達の本質は、両蛋白質におけるリン酸の結合です。よって、リン酸が結合したPI3KないしAktをどれだけ減少するかで、PI3K/Aktシグナル伝達の阻害の程度が分かります。そこで、先程と同様にH157細胞を用いてリン酸が結合したPI3Kの量を比較しました。ルテオリンの単独投与で、PI3Kのリン酸結合体は投与前の90%になりました。ケルセチンの単独投与でも、88%であり同程度に減少しました。これが両者の同時投与では58%に減少して、増強効果がここでも見られました。また、Aktのリン酸結合体でも同様の傾向を確認して、遺伝子解析による予測の正しさが証明されました。

以上、非常によく似たケルセチンとルテオリンは同程度の抗癌活性ながら、両者を組合せた時に活性は飛躍的に増強されました。その仕組みは、PI3K/Aktシグナル伝達の阻害による細胞死でした。

キーワード: ケルセチン、ルテオリン、肺癌、H157、細胞死、PI3K/Aktシグナル伝達