ケルセチンとアルベンダゾールとの組合せによる住血線虫症の治療
出典: PLOS Neglected Tropical Diseases 2024, 18, e0012526
https://journals.plos.org/plosntds/article?id=10.1371/journal.pntd.0012526
著者: Ho Yin Pekkle Lam, Yu-Ting Huang, Ting-Ruei Liang, Shih-Yi Peng
概要: 住血線虫症は、住血線虫という寄生虫の幼虫に感染して起こります。住血線虫の幼虫が寄生する動物はナメクジやカエルですが、これらに手を触れた後の手洗いが不十分だと、ヒトにも感染します。感染して1~2週間は無症状ですが、その後に頭痛・吐き気・倦怠感の症状が現れます。治療法は痛みを和らげるだけで、幼虫が自然に死滅するのを待つのが一般的ですが、アルベンダゾールという寄生虫を体外に出す薬(虫下し)を用いる場合もあります。今回の研究では、アルベンダゾールとケルセチンとの組合せが、住血線虫症の治療効果を高めることが発見されました。
住血線虫の幼虫に感染したマウス20匹を4群に分け、以下の処置を行いました。1) 薬物投与なし、2) アルベンダゾール20 mg/kgを毎日投与、3) ケルセチン40 mg/kgを毎日投与、4) アルベンダゾール20 mg/kgとケルセチン40 mg/kgを毎日投与。これとは別に、幼虫に感染していないマウス5匹を正常群として用意しました。まず、それぞれの体重を追跡しました。1~2週間にかけては感染の有無や薬物の内容とは関係なく一定で、初期の無症状期間を反映しました。3週目から感染による体重減少が現れ始め、4週目には顕著な違いがありました。正常群の体重は100 gを4週間キープしましたが、1)~3)では75 gまで落ちました。しかし4)の体重は90 gで、アルベンダゾールとケルセチンとの組合せが体重減少に歯止めを掛けました。
次に、バランス感覚の違いを検証しました。太さ1 cm、長さ70 cmの上を歩かせ、端から端までの到達時間を比較しました。正常群は10秒で、1) 75秒、2) 45秒、3) 20秒、4) 10秒でした。アルベンダゾールとケルセチンは両方とも単独投与で改善効果はありましたが、凄いことに組合せは正常と全く同じレベルまで回復しました。ちなみに、この到達時間は4週目のデータです。同様の試験は体重と同様に1週間おきに実施しましたが、2週目までは全ての群が10秒で違いがありませんでした。3週目から違いが見られ、バランス感覚の劣化による到達時間の遅れは、住血線虫症が原因です。
バランス感覚の劣化は、脳神経の異常を示唆します。そこで、各マウスの脳の状況を4週目に調べました。正常群では全く見られない脳出血が、住血線虫症の症状として現れました。出血部位を比較したところ、2)と3)は1)の5~6割程度で改善効果がありました。4)では2割程度まで減少しており、より優れた治療効果がありました。また、IL-1βという炎症誘導物質の量は、正常群: 35 pg/mg、1) 75 pg/mg、2) 55 pg/mg、3) 50 pg/mg、4) 35 pg/mgでした。ここでも、組合せが正常に戻したことが分かります。
冒頭に述べたように、ベンダゾールには寄生した幼虫を排出する働きがあります。一方、ケルセチンの抗炎症作用は、この連載でも再三述べています。住血線虫症の治療法として考えられる、ベンダゾールで感染した寄生虫を外に出す、ケルセチンで炎症を抑える、それぞれに効果がありました。この2つの働きを組合せた時に、強力な治療効果となりました。ごく稀ながら、住血線虫症が重症化すると、知的障害の後遺症も知られています。ケルセチンで脳炎症や脳出血を抑制することに意義があり、新しい治療法として注目したいところです。
キーワード: 住血線虫症、ケルセチン、アルベンダゾール、体重減少、バランス感覚、脳出血、炎症