ケルセチンはマイトファジーを活性化して急性肝不全を改善する
出典: International Immunopharmacology 2024, 143, 113444
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1567576924019660
著者: Huan Wu, Long Wu, Li Luo, Ye-ting Wu, Qing-xiu Zhang, Hai-yang Li, Bao-fang Zhang
概要: 急性肝不全とは、薬物やウィルスで肝細胞が損傷して肝機能が急速に低下する状態です。急性肝不全を発症した時の死亡率は80%とされており、適切な治療薬が渇望されています。今回の研究では、ケルセチンが急性肝不全のマウスの死亡率を著しく改善し、その仕組みも解明されました。
6匹のマウスに肝毒性を有する薬物を注射すると急性肝不全を発症して、6時間後には半分が死亡して3匹となり、8時間後には1匹となり、10時間後には全滅しました。ケルセチンの改善効果は、前投与で検証しました。すなわち、マウスを6匹ずつ3群に分け、ケルセチン25, 50, 100 mg/kgを毎日投与しました。1週間後に同じ条件の薬物注射で、急性肝不全を誘発しました。25 mg/kg群では、16時間以内に半分が死滅しましたが、残った3匹は生き続けました。16時間以降に生存したマウス数は、50 mg/kg群が4匹、100 mg/kg群で5匹でした。この通りケルセチンは用量依存的に急性肝不全のマウスの死亡率を低減しましたが、肝組織にも顕著な改善効果がありました。急性肝不全の肝組織は炎症と出血で赤黒くなり、壊死した部分が増えました。しかし、ケルセチンの用量が増えるごとに炎症と出血が抑制されて赤黒さが薄まり、壊死も減少しました。
それぞれの肝組織を調べたところ、PINK1とParkinなる2種類の蛋白質の発現に大きな変動がありました。ケルセチン非投与群では、急性肝不全の発症によって両方とも元の1/3に減りました。減少したPINK1とParkinはケルセチンの投与で回復し、特に100 mg/kg群では発症前より増えた位です。なお、2つの蛋白質は互いに協力し合って、損傷して機能しなくなったミトコンドリアを分解する働きがあります。ミトコンドリアは細胞内に存在して、活動に必要なエネルギーを作ります。ミトコンドリアが機能しなくなれば、エネルギーが供給されず活動が停止するので、肝組織は壊死します。ケルセチンを投与すれば損傷したミトコンドリアが分解され、正常なミトコンドリアが新しく作られるため、肝組織は壊死が減りました。このようなミトコンドリアの新陳代謝を「マイトファジー」と呼びます。
次に、ケルセチンによる急性肝不全の改善とマイトファジーとの関連を確かめる実験を行いました。先程のマウスの実験において、100 mg/kgのケルセチンと同時にマイトファジー阻害剤も投与します。 1週間後に同様に急性肝不全を誘発したところ、ケルセチン非投与群と同じ挙動でした。10時間後に全滅し、肝組織の炎症・出血・壊死の改善はなく、ケルセチンの効果は完全に打消されました。
結論として、急性肝不全の本質は、マイトファジーの低下にありました。実験で用いた薬物は肝細胞のミトコンドリアを損傷した上、マイトファジーまで抑制したため、肝組織は壊死に向かってまっしぐらでした。その結果、マウスの寿命は発症から10時間たらずでした。ところが予めケルセチンを1週間投与すれば、毒物でミトコンドリアが損傷しても、マイトファジーが活性化しているので次々と新しいミトコンドリアに生まれ変わり、壊死を抑制できました。マイトファジーのような、古くなった組織や蛋白質を分解して新たに作り直す現象は、「オートファジー」と呼ばれます。ミトコンドリアだけ特別に、マイトファジーという他の名称があります。
キーワード: 急性肝不全、ケルセチン、ミトコンドリア、マイトファジー