ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンはフェロトーシスを阻害して喘息を改善する

出典: Translational Pediatrics 2024, 13, 1747-1759

https://tp.amegroups.org/article/view/130344/html

著者: Bo Sun, Fei Cai, Liming Yu, Ran An, Bing Wei, Miao Li

 

概要: 喘息とは、アレルギーが原因で気道(呼吸時の空気の通り道)が炎症を起こした状態です。激しい咳と呼吸の苦しさが、発作時の特徴的な症状です。世界に3億人の喘息患者が存在し、内10~15%は子供だと言われています。ケルセチンの抗炎症作用が喘息に有効である先行研究は多くありましたが、今回の研究では、ケルセチンが喘息を改善する仕組みの一部が解明されました。

卵白の蛋白質を注射して喘息を誘発したマウス18匹を6匹ずつ3群に分け、以下の処置を行いました。1) 薬物投与なし、2) ケルセチン40 mg/kgを毎日投与、3) ケルセチン80 mg/kgを毎日投与。これとは別に、卵白蛋白質を注射しないマウス6匹を正常群として用意しました。25日の投与期間が終了した後、各マウスの肺の状態を調べました。肺に全く炎症がなければ0、炎症の起きている領域が5%以内であれば0.5、炎症領域が5~10%なら1.0、10~15%なら1.5、15~20%なら2.0という具合に炎症スコアをつけます。数値が大きい程、炎症の深刻度が増し、最も重篤を意味する最大スコアは6.0になります。正常マウスの炎症スコアは当然ながら0でしたが、喘息になりケルセチンを投与しないマウスは5.4でした。しかし、ケルセチンを投与すると40 mg/kg群で3.1、80 mg/kg群は1.6と顕著な改善効果を認めました。肺組織中の鉄分を調べたところ、正常群の0.8 μmol/gに対して非投与群では2.0 μmol/gに上昇していました。一方、ケルセチンの投与で鉄濃度は減少し、40 mg/kg群が1.7 μmol/g、40 mg/kg群では1.3 μmol/gでした。このように肺の炎症スコアと鉄濃度とは密接に関係していることが分かりました。

以上の結果から、喘息による肺組織の炎症は「フェロトーシス」と呼ばれる鉄が媒介する細胞死により、ケルセチンはフェロトーシスを阻害して炎症を軽減するという仮説が立てられました。

次に、この仮説を確かめる実験を行いました。肺に限らず全身の組織には、恒常性を保つためにSIRT1・Nrf2・HO-1という3種類の蛋白質があります。3つの内1つでも何らかの原因で不足した組織では、フェロトーシスが誘導されて細胞死が起こります。そこで、肺組織における3蛋白質の発現状況を調べました。面白いことに、3蛋白質はいずれも、正常群に比べて非投与群で大幅に減少しており喘息による肺組織のフェロトーシスが示唆されました。しかし、ケルセチンの投与で3蛋白質の発現は改善され、特に80 mg/kg群のSIRT1とNrf2は正常群と変わりませんでした。

最後に6匹の喘息マウスを用いて、ケルセチンの代わりにフェロトーシス阻害剤を25日間投与する実験を行いました。フェロトーシス阻害剤は、ケルセチンと同じように肺の炎症スコアを改善しました。また、フェロトーシス阻害剤だけに、3蛋白質の上昇はケルセチン以上に優れており、HO-1に至っては正常マウスの発現量を凌駕した位です。

以上の結果、ケルセチンによる喘息の改善の仕組みとして、肺組織のフェロトーシスの阻害に基づく炎症の軽減が明らかになりました。

キーワード: 喘息、ケルセチン、炎症スコア、フェロトーシス、SIRT1/Nrf2/HO-1