ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによる近視の改善

出典: Investigative Ophthalmology & Visual Science 2024, 65, 11

https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2802210

著者: Miao Zhang, Ruixue Zhang, Jiawen Hao, Xiaoyue Zhao, Zhongyu Ma, Yuan Peng, Bo Bao, Jizhao Xin, Xuewei Yin, Hongsheng Bi, Dadong Guo

 

概要: 正常な眼で受け取った光は、網膜(眼の奥にある光を感じる組織)で焦点が合います。より手前で焦点が合ってしまい、ぼやけた画像を網膜が認識する現象が近視です。角膜(目の黒い部分)から網膜までの距離を眼軸長と呼びますが、正常な眼では眼軸長イコール焦点距離です。何らかの原因で眼軸長が長くなると、焦点距離は変わらないため、網膜の手前で焦点が合って近視です。今回の研究では、近視のモルモットにて、長くなった眼軸長をケルセチンが改善することが示されました。

モルモットの眼にレンズを入れて、近視の状態を作りました。正常な視力の人が他人の眼鏡を掛けると近視になると言われますが、同じことを施しました。用いたレンズは-6の屈折度数で、視力0.04の高度近視を矯正する眼鏡に相当します。近視のモルモット60匹を2群に分け、ケルセチン投与の有無を比較しました。ケルセチンは50 mg/kgを毎日投与し、4週間継続しました。これとは別に、レンズを入れないマウス30匹を正常群として用意しました。4週間の投与期間が終了した後、各マウスの眼の超音波検査を行い、眼軸長を調べました。正常群の眼軸長は8.3 mmでしたが、ケルセチン非投与群は8.7 mmになっており、レンズによる近視を端的に示しました。ケルセチン群の眼軸長は8.5 mmで、正常群と非投与群との丁度中間に位置して、改善効果を認めました。

近視で眼軸長が長くなるのは何故か?という疑問が湧いてきますが、最近の研究では強膜との関連が指摘されています。強膜とは、眼球の白目の外側を覆う膜のことで、主にコラーゲンと言う蛋白質で構成されています。そこで、各マウスの強膜を調べました。正常群の強膜の厚さは83 μmでしたが、ケルセチン非投与群では66 μmと薄くなりました。ケルセチン群の強膜の厚さは75 μmで、強膜の厚みを増すことが眼軸長の改善を示唆しています。

眼軸長と強膜の厚さとの関連が明らかになったので、強膜を構成するコラーゲンの状況を比較しました。まず、コラーゲンの発現量ですが、正常群を1.0とした時の相対比は、非投与群が0.45での半分以下にまで減少しましたが、ケルセチン群は0.75まで回復しています。次に調べた項目は、コラーゲンを分解するMMP-2という酵素の発現量の相対比です。非投与群の1.7に対して、ケルセチン群は1.3に減少しました。近視ではMMP-2が活性化してコラーゲンを分解するので、強膜が薄くなり、ケルセチンはMMP-2を抑制して強膜を厚くする仕組みが明快になりました。

以上の結果、ケルセチンは近視の原因となる眼軸長・強膜・コラーゲンに顕著な改善効果を示しました。全てのデータで正常と同等にまで回復した項目はありませんでしたので、眼鏡が不要になる程の改善は期待できません。しかし、改善効果はありますので、眼の調子が悪い時はケルセチンを多く含む玉ねぎやリンゴなどを摂ることをお勧めします。

キーワード: 近視、ケルセチン、眼軸長、強膜、コラーゲン、MMP-2