ケルセチンとベネトクラクスとの組合せが示す、強力な急性骨髄性白血病に対する効果
出典: Scientific Reports 2024, 14, 26418
https://www.nature.com/articles/s41598-024-78221-9
著者: Renshi Kawakatsu, Kenjiro Tadagaki, Kenta Yamasaki, Yasumichi Kuwahara, Shinichiro Nakada, Tatsushi Yoshida
概要: 急性骨髄性白血病は、血液癌の中で患者数が最も多いことが知られています。抗癌剤による急性骨髄性白血病の治療で寛解しても再発しやすく、しかも再発すると過去有効だった抗癌剤が効かなくなる薬物耐性を獲得しやすい特徴があります。従って、発症から5年後の生存率は50%以下であり、予後が悪いことも厄介な点と言えます。今回の研究では、ケルセチンとベネトクラクスとの組合せが、急性骨髄性白血病細胞に対する効果を劇的に改善することが示されました。
ベネトクラクスとは、白血病の中でも別範疇になる、慢性リンパ性白血病の治療薬として世に出ました。その後、急性骨髄性白血病への適用拡張を図り、ある種の抗癌剤と組合せて承認を獲得しましたが、限定的な効果であるのが現実です。より効果的な組合せ候補として、ケルセチンに着目したのが研究の発端です。KG-1という急性骨髄性白血病細胞に、ベネトクラクスとケルセチンそれぞれを単独で投与しましたが細胞の形状に変化はありませんでした。面白いことに、両者を組合せて投与するとKG-1細胞の凝縮が見られました。細胞の凝縮が何を意味するのか知るべく、細胞分裂における周期を調べました。細胞分裂していない休止状態(G0期)、細胞分裂を始めるために遺伝子の複製が開始した状態(G1期)、遺伝子の複製が進行している状態(S期)、細胞分裂が起きている状態(G2/M期)の4種類の状態がありますが、各状態の占める割合を調べました。何も投与しないKG-1では各周期が4, 58, 12, 25%で、G1期が多いものの各周期のバランスがとれており、正常に細胞分裂が起きています。ケルセチンの単独投与はG1期が62%に増え、その分他の周期の割合が減りました。ベネトクラクスの単独投与はG0期が60%になり、細胞分裂の抑制を示唆しました。組合せ投与ではG0期が72%に達し、S期に至っては殆ど見られませんでした。組合せにより細胞分裂が抑制されたので、KG-1の凝縮は細胞死であることが分かりました。
細胞死には様々な種類がありますが、特に抗癌剤が癌細胞に誘導する死で最も多いアポトーシスという細胞死に着目しました。今度はKG-1細胞に、ベネトクラクス・ケルセチン・アポトーシス阻害剤の3つを組合せて投与したところ、細胞の凝縮はありませんでした。細胞周期も、何も投与しない時と同様の構成割合であり、普通に細胞分裂が起きていました。従って、KG-1細胞の凝縮の本質は、アポトーシスであることが分かりました。
実は、ベネトクラクスの作用機序として、Bcl-2という蛋白質のBH3という部位に結合することが知られています。BH3にはBaxという別の蛋白質が結合しますが、Bcl-2とBaxがBH3を介して結合していると、アポトーシスは起こりません。ところが、BH3にベネトクラクスが結合すると、Baxが遊離して、活性化したBaxはアポトーシス開始のスイッチをオンにします。そこで、KG-1細胞にケルセチンを単独作用した時のBaxの挙動を調べました。その結果、Baxは作用前の1.3倍に増えました。KG-1場合、ベネトクラクスによるBaxの遊離だけではアポトーシスは不十分で、ケルセチンがBaxを増やして初めてアポトーシスが誘導され、細胞凝縮を観察しました。
キーワード: 急性骨髄性白血病、ベネトクラクス、ケルセチン、KG-1、細胞周期、アポトーシス