キイロショウジョウバエ幼虫における高濃度の砂糖の悪影響はルチンが改善する
出典: ACS Chemical Health & Safety 2024, 31, in press
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.chas.4c00083
著者: Abhratanu Ganguly, Sayantani Nanda, Moutushi Mandi, Kanchana Das, Gopal Biswas, Pritam Maitra, Prem Rajak
概要: 砂糖の摂り過ぎが健康に害を及ぼすことは、よく知られています。甘い物をつい食べ過ぎた時に、砂糖の悪影響を最小限に抑える方法はあるでしょうか?今回の研究では、キイロショウジョウバエの幼虫を題材に用いて、過剰の砂糖を摂取した時の悪影響をルチンが改善することが発見されました。ルチンとはケルセチンの仲間で、ケルセチンに2個の糖が結合しています。
幼虫を飼う時には、飼育マットと呼ばれる栄養分を含む土の中で育てます。キイロショウジョウバエの幼虫にも専用のマットがありますが、通常のマットと30%の砂糖を添加したマットで飼育しました。砂糖を添加したマットで育つと、発育時に過剰の砂糖を摂取したことを意味し、その後の成長と行動を比べました。さらにルチンの影響を調べるべく、砂糖とルチンを添加したマットも用意しました。この時、砂糖の濃度は30%に固定しておき、ルチンの濃度は100, 150, 200, 250, 300 μMの5通りを試しました。よって、飼育条件は全部で7通りです。
幼虫が蛹になるまでに要した日数は、通常のマットで7.4日、30%砂糖マットで9.5日であり、2日の遅れがありました。ルチンの影響ですが、濃度の薄い順に8.8, 8.3, 7.6, 7.7, 8.0日でした。面白いことに、100~200 μMの範囲では濃度が増えるにつれ日数が短縮し、200~250 μMで正常に最も近づき、それ以上濃くなると反って長くなりました。同様の傾向は、蛹が成虫になるまでの日数にも現れました。すなわち、通常 vs. 砂糖は6.45日と6.91日であり、ルチンの影響は薄い順に6.91, 6.73, 6.65, 6.88, 6.88日で200 μMの時がベストでした。
次に、成虫になった時の羽の長さを比較しました。通常 vs. 砂糖は2.21 mmと2.09 mmであり、砂糖は成長を遅らせるだけでなく、羽が短い成虫になりました。ルチンの存在は薄い順に2.10, 2.12, 2.15, 2.14, 2.13 mmの羽の長さの成虫となり、200 μMがピークでした。
キイロショウジョウバエの場合、幼虫の発達は第1齢から第3齢までの3段階あります。卵から孵化した直後が第1齢で、蛹の一つ手前が第3齢になります。第1齢で開始した実験ですが、第3齢に達した時点で行動を調べました。キイロショウジョウバエの幼虫は、明るい所より暗い所を好む習性があります。実際、照明した箱と照明しない箱をつなぎ、その境界に正常の幼虫を置くと、80%の幼虫が暗い方に移動し、残る20%が明るい方に行きました。砂糖に晒した幼虫では逆転が見られ、暗い方が36%、明るい方が64%でした。従って、本来の習性とは異なる、行動の異常を砂糖が誘発したことになります。この行動の変化もルチンが改善しましたが、濃度による違いが鮮明でした。100 μMのルチンは、暗所46%明所54%で改善はしたものの明所の方が多く、150 μMで再逆転が起こり暗所78%明所32%となりました。200 μMでは正常と変わらない暗所82%明所18%で、それ以降は緩やかに暗所が減少しました。
以上の結果は、キイロショウジョウバエの実験ながら示唆に富んでいます。つい砂糖を摂り過ぎた時には、ルチンを多く含むソバやアスパラガスを食べると良いでしょう。
キーワード: キイロショウジョウバエ、砂糖、ルチン、成長、行動