ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

火傷の治療におけるケルセチンの活躍

出典: Biomacromolecules 2024, 25, 7529–7542

https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.biomac.4c01276

著者: Dandan Xing, Yangrui Du, Kang Dai, Shiying Lang, Yangjing Bai, Gongyan Liu

 

概要: 火傷の治療には、創傷被覆材を適用します。創傷被覆材には痛みを和らげるだけでなく、火傷した皮膚に適度な保湿状態を作り、瘢痕(はんこん)と呼ばれる火傷の跡を形成しにくくする目的があります。今回の研究では、2種類の多糖類から作るヒドロゲル(水を内部に含む固体の総称)が創傷被覆材に有用であることが判明し、このヒドロゲルにケルセチンを添加すると更に良好な素材として火傷の治癒に寄与しました。

24匹のラットを用意し、毛を剃った背中に100℃に加熱した鉄を押し付けて、火傷を誘発しました。1匹のラット当り4カ所の火傷を作り、それぞれに処置なし・市販の創傷被覆材(以下、GA)の適用・多糖類由来のヒドロゲル創傷被覆材(以下、CA) の適用・ケルセチンを添加したCA(以下、QCA) の適用の4通りを施しました。患部の細菌感染は、火傷から3日ほど経過した頃に始まることが知られています。そこで、4日後にそれぞれの組織液を採取して、細菌数を調べました。処置しない患部からは1 mLの組織液中に約10万個の細菌を検出し、GA処置で約1万個、CA処置で約250個、QCA処置で10個という驚異的な減少を観察しました。CAに強い抗菌活性があり、QCAで増強されたことを意味し、取りも直さずケルセチンの抗菌活性に基づきます。

8日目に、傷口の直り具合を比較しました。火傷の条件が一緒なので、火傷直後の傷口の面積は全て等しく、これを100%とした時のそれぞれの傷口面積は、以下の通りでした。処置なし: 60%、GA処置: 54%、CA処置: 45%、QCA処置: 43%。12日目の傷口の面積は、処置なし: 52%、GA処置: 45%、CA処置: 38%、QCA処置: 25%でした。このデータは、1) 処置内容に関係なく傷口は8~12日後にかけて急速に縮小した、2) CA vs. QCA処置の違いは8日目に殆どなく、12日目には顕著な差となって現れた、という2点を強調します。そこで、8日目の傷口に発現したIL-6という炎症誘導物質の相対量を比較しました。処置なしにおける発現量を100%とすると、GA処置: 62%、CA処置: 37%、QCA処置: 18%となり、それぞれの抗炎症作用の違いが分かりました。すなわち、CAの強い抗炎症作用とQCAにおける増強を認め、ケルセチンの抗炎症作用が傷口の急速な縮小と密接に関連していました。

20日目になると、QCA処置は火傷前の状態にまで回復しました。特筆すべきことに、瘢痕は殆ど見られず、瘢痕なしの火傷の治癒という最高の効果を達成しました。その一方で、他の3種類はまだ傷口を認めその面積は、処置なし: 40%、GA処置: 27%、CA処置: 22%でした。回復までの日数も、QCA処置で顕著に短縮できました。

一般に多糖類は、水分を多く含む性質があるため、冒頭に述べた患部の保湿状態に有利に働きます。多糖類を基盤とするCA処置が、従来の治療手段のGA処置に比べて優れた効果を示したのは、多糖類由来のヒドロゲルが創傷被覆材に適した性質であることを物語ります。これにケルセチンを加えたQCA処置はさらに有望でした。抗菌活性と抗炎症作用を発揮したので、ケルセチンは火傷の治療でも大活躍しました。

キーワード: 火傷、創傷被覆材、多糖類、ケルセチン、抗菌活性、抗炎症作用、瘢痕