ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ジヒドロケルセチンのナノ粒子を含む鼻用ゲルを用いるアルツハイマー病の治療

出典: International Journal of Pharmaceutics 2024, 666, 124814

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378517324010482?via%3Dihub

著者: Basant A. Abou-Taleb, Wessam F. El-Hadidy, Inas M. Masoud, Noura A. Matar, Hoda S. Hussein

 

概要: 以前、アルツハイマー病の治療に、ケルセチンの鼻腔内投与が既存薬を上回る効果を示した実験を述べました。今回の研究は、その改良版と言うべき実験で「ナノ粒子」という概念が加わりました。なお、ジヒドロケルセチンというケルセチンと性質や構造がよく似た物質が有効成分です。

キトサンという甲殻類の殻に含まれる糖類を微小化して、ナノ粒子としました。ナノとは10億分の1のことで、ナノ粒子とは直径が100ナノメートル以下、すなわち1000万の1メートル以下の粒子のことです。キトサンのナノ粒子でジヒドロケルセチンを封入して、更にゲルに配合して鼻腔内投与す形態に加工しました。また、比較のためにキトサンのナノ粒子を省略して、ジヒドロケルセチンを直接添加したゲルも調製しました。24匹のラットに神経毒を飲ませてアルツハイマー病を誘発し、8匹ずつ3群に分けました。それぞれの鼻にゲルを投与しますが、ゲルの種類は、ジヒドロケルセチンを含まないゲル(無投与群)・ジヒドロケルセチンを含むゲル(DQ群)・ジヒドロケルセチン/キトサンナノ粒子を含むゲル(NP群)で異なります。これとは別に正常群として、アルツハイマー病を発症していないラット8匹を用意しました。投与期間は4週間とし、1日あたりに投与するジヒドロケルセチンの用量は、25 mg/kgで統一しました。

投与期間の終了後、新奇探索試験でラットの記憶力を評価しました。ラットには初めて見る新しい物に興味を示す習性があるため、「新規」ではなく「新奇」と表記します。まず2種類の物体を飼育箱に入れ、10分間マウスを自由に行動させます。30分間の間隔を置き、片方の物体を別の物体と置換えて10分間の行動を観察します。記憶が正常であれば、以前からあった物体と新しい物体とが識別できますので、習性に従って新しい物体に近づく時間が長くなります。正常群のラットが物体に寄った総時間の60%は、新しい物体でした。無投与群では52%に落ちてアルツハイマー病による記憶障害を示していますが、DQ群は56%で改善効果を認めました。注目すべきことに、NP群は60%で正常群と同等レベルまで回復しています。ジヒドロケルセチンはアルツハイマー病に有効性を示しますが、効果を最大限にするにはナノ粒子が最適であることを意味します。

次に、脳内に蓄積したアミロイドβという、アルツハイマー病の原因物質の量を調べました。アミロイドβが脳神経を損傷するので、記憶力の低下に始まりひいては日常生活に支障をきたすほど認知機能障害を招くアルツハイマー病の根源と言えます。正常群の脳には9 pg/mgのアミロイドβが検出されましたが、無投与群では24 pg/mgまで上昇しており、アルツハイマー病の深刻さを物語ります。DQ群は14 pg/mg、NP群は11 pg/mgとなりました。ジヒドロケルセチンの有効性と、ナノ粒子が正常に限りなく近くした効果は、脳内のアミロイドβの軽減にも見られました。

以前の研究では、ケルセチンの鼻腔内投与がアルツハイマー病を顕著に改善しました。今回は、ジヒドロケルセチンをナノ粒子に担持して、正常レベルまでの改善効果を実現しました。

キーワード: アルツハイマー病、ジヒドロケルセチン、ナノ粒子、鼻腔内投与、ゲル、新奇探索試験、アミロイドβ