ケルセチンの抗炎症作用に基づく、脳梗塞に伴う運動機能障害の改善
出典: BMC Neurology 2025, 25, 9
https://link.springer.com/article/10.1186/s12883-024-04017-z
著者: Mehran Mahyar, Erfan Ghadirzadeh, Pedram Nezhadnaderi, Zahrasadat Moayedi, Parniyan Maboud, Arvin Ebrahimi, Ali Siahposht-Khachaki, Narges Karimi
概要: 脳梗塞とは、脳の血管が詰まって血液が行き届かなくなり、脳組織が死滅した状態になる病気です。主な症状は、運動機能障害・意識障害・半身麻痺・言語障害・頭痛・めまい・嘔吐です。また、深刻な後遺症が脳梗塞の特徴で、時には死に至ります。今回の研究では、ケルセチンによる脳神経の炎症の抑制が、ラットの脳梗塞に伴う運動機能障害を改善することが発見されました。
ラット32匹を開頭手術して、脳動脈を糸で縛って脳梗塞の状態を人工的に作りました。糸の縛りを取った後、頭を縫合して8匹ずつ4群に分け、ケルセチン投与の量(0, 5, 10, 20 mg/kg)を比較しました。手術の30分後に1回目の投与を行い、以降は24時間置きに3日間連続して投与しました。よって、ケルセチンの投与は計4回になります。また、脳動脈の縛りを行わず開頭手術と縫合のみ行った(以下、偽手術群)ラット8匹と、手術をしない正常ラット8匹も、別に用意しました。
ケルセチンの最後の投与の1時間後に、各ラットの運動機能を評価しました。回転速度を機械的に調節できる棒の上にラットを載せます。棒が回り出すと、ラットは棒から落ちないように、バランスを取りながら足を動かします。まず、低速度で回転させた棒に30分間載せて、ラットを慣らせます。本試験は徐々に回転速度を上げながら300秒行いますが、ラットが耐え切れず棒から落ちた時点で終了です。すなわち、棒に載っている時間の長さを運動機能の指標とします。正常群と偽手術群は落ちることなく300秒の試験を完遂しましたが、ケルセチン非投与群は175秒でした。このデータは、開頭手術と縫合のみでは運動機能に影響がなく、脳動脈を縛って初めて運動機能障害が現れたことを意味します。従って、脳梗塞に伴う運動機能障害を実験的に再現しています。さて、ケルセチンの効果ですが、5 mg/kg群が230秒、10 mg/kg群が290秒でした。ケルセチンの投与により運動機能障害が改善され、特に10 mg/kg群は正常群や偽手術群に近い値まで回復しています。しかし意外なことに、20 mg/kg群は170秒と、ケルセチン非投与群より悪化していました。過ぎたるはなお及ばざるが如しという諺どおりの現象が、現実に起きました。
運動を司る器官は脳の海馬ですので、次に、海馬の状態を調べました。炎症を引き起こすIL-1βという蛋白質の濃度を測定して、炎症の度合いを比較しました。数値が大きい程、炎症が深刻です。正常群: 45 pg/mL、偽手術群: 45 pg/mL、ケルセチン非投与群: 86 pg/mL、5 mg/kg群: 64 pg/mL、10 mg/kg群: 46 pg/mL、20 mg/kg群: 84 pg/mLというデータが得られました。偽手術で海馬の炎症は起こらなくとも、脳梗塞を再現した動脈の縛りがIL-1βを上昇して炎症をもたらします。ケルセチンの投与がIL-1βを減少しましたが、適切用量は10 mg/kgであり、それを超えた20 mg/kgでは反って逆効果でした。
以上、ケルセチンの抗炎症作用が、脳梗塞に伴う運動機能障害を改善しました。しかし、適切用量を超えると逆効果になるので、注意が必要です。
キーワード: ケルセチン、脳梗塞、運動機能障害、海馬、抗炎症作用