ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンの抗炎症作用による急性敗血症の予防

出典: Molecules 2024, 29, 5900

https://www.mdpi.com/1420-3049/29/24/5900

著者: Eojin Kim, Deok-Hyeong Choi, Young-Su Yi

 

概要: 敗血症とは、細菌やウィルスに感染した際に体が反応して、制御が不可能で命にかかわる臓器不全の総称です。敗血症によって心臓を構成する筋肉である心筋が働らかない状態であれば、敗血症性心筋症と呼ばれます。今回の研究では、予めケルセチンを投与したマウスは細菌由来の毒素を投与しても、急性敗血症の発症が減少したことが発見されました。

マウスを3群に分け、内2群には7日間連続してケルセチンを投与(25または50 mg/kgの低用量と高用量群)し、残る第3のグループは投与しませんでした。7日目の最終投与の1時間後に、リポ多糖という細菌が産出する毒素を全てのマウスに注射しました。すなわち、細菌に感染した時に体に悪さをする本体を注射したことになります。実際、ケルセチンを投与しないグループでは、毒素注射から35時間以内に次々と死亡が起こり、35時間後における生存率は20%でした。リポ多糖の注射は、いわば細菌感染による急性敗血症を実験的に再現したと言えますが、ケルセチン投与群では発症が抑えられました。35時間時点では、両方の投与群とも生存率は100%でした。45時間後に低用量群の一部で死亡があり、生存率は80%に低下しましたが、その後の死亡はなく観察を継続した80時間後まで80%のままでした。高用量群では死亡がゼロで、80時間後まで生存率100%を継続しました。従って、ケルセチンの前投与で急性敗血症が予防できたことを意味します。

80時間後に、死亡した分も含めてマウス全部の血液を集めて、炎症誘導物質の量を比較しました。炎症誘導物質の代表とも言えるIL-1βの血中濃度は、無投与群: 175 pg/mL、低用量群: 95 pg/mL、高用量群: 105 pg/mLでした。別の炎症誘導因子であるIL-18の血中濃度は、無投与群: 7.9 ng/mL、低用量群: 6.4 ng/mL、高用量群: 5.0 ng/mLでした。リポ多糖を注射しないマウスでは、IL-1βとIL-18がそれぞれ45 pg/mLと0.8 ng/mLでした。これらは正常値と見なせますので、リポ多糖がいかに炎症誘導物質を上昇し、ケルセチンが上昇を抑制したかよく分かります。しかも血液は全身を循環しますので、全身に炎症が及ぶことを意味するので、35時間以内に生存率が20%まで減少しました。そこを完全に予防できたのは、ケルセチンが持つ抗炎症作用だと言えます。

次に、ケルセチンの抗炎症作用を細胞レベルで調べる実験を行いました。J774A.1というマウスの白血球に含まれる細胞を、先程の急性敗血症を誘発したリポ多糖で刺激しました。リポ多糖の投与前後でIL-1βは細胞内で検出されませんでした。そこでリポ多糖と炎症誘導物質との組合せで刺激したところ、IL-1βの濃度が27 ng/mLに跳ね上がり、マウスの血液で見られた状態を細胞でも再現できました。ここにケルセチンを加えると、IL -1β濃度は1~2 ng/mLに低下しました。

以上、ケルセチンはマウスと細胞の両方で、細菌由来の毒素(リポ多糖)がもたらす炎症誘導物質を軽減しました。細菌に感染しないのが一番ですが、たとえ感染してもその後の炎症誘導をさせない点がケルセチンの強みです。その結果、急性敗血症が予防でき、生存率100%を維持しました。

キーワード: ケルセチン、敗血症、リポ多糖、抗炎症作用、J774A.1