ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

イソケルシトリンによるアトピー性皮膚炎の治療

出典: Inflammation 2025, 48, in press

https://link.springer.com/article/10.1007/s10753-025-02236-1

著者: Shih-Chun Yang, Zi-Yu Chang, Chien-Yu Hsiao, Abdullah Alshetaili, Shih-Hsuan Wei, Yu-Tai Hsiao, Jia-You Fang

 

概要: アトピー性皮膚炎とは、かゆみのある湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。患部は赤くなる、乾燥する、かさぶたが生じるといった症状を呈します。遺伝・免疫・環境の3大要因が複雑に絡み合って起こるため、アトピー性皮膚炎の治療は容易ではありません。今回の研究では、ケルセチンに糖が1個結合したイソケルシトリンが、化学物質で発症したマウスのアトピー性皮膚炎の症状を良好に改善しました。

マウス18匹の背中にDNCB という化学物質を塗り、アトピー性皮膚炎に似た状態を作りました。6匹3群に分け、1) 薬物治療なし、2) 患部にイソケルシトリンを塗布、3) 患部に既存薬であるタスロリムスを塗布、の各処置を1週間継続しました。これとは別に、DNCBを塗らないマウス6匹を正常群として用意しました。1週間の処置が終了した後、各マウスの患部の状態を比較しました。

まず、皮膚の乾燥状態の指標である経表皮水分蒸散量を比較しました。汗以外の手段で、1時間/1平方メートルあたりに皮膚から放出する水の量を意味するので、数値が大きい程、皮膚が乾燥しています。正常マウスでは2 gでしたが、1)では30 gの水分が出て行きました。2)では26 g、3)では25 gでした。正常には程遠いながら、イソケルシトリンはアトピー性皮膚炎の既存薬と同等に、DNCBが悪化した皮膚の乾燥を改善しました。次に、患部における炎症誘導物質の量を比較しました。TNF-αとCCL5という2種類を測定したところ、前者は、正常: ほとんど検出されず、1) 290 pg/mL、2) 120 pg/mL、3) 200 pg/mLという結果でした。もう一つのCCL5は、正常: 15 pg/mL、1) 120 pg/mL、2) 45 pg/mL、3) 70 pg/mLでした。注目すべきことに、両指標ともイソケルシトリンの方がタスロリムスよりも良好に低下しています。よって、抗炎症作用に関しては、イソケルシトリンがタスロリムスを上回りました。次に、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状とも言える、患部の表皮の厚さを比較しました。正常群では10 mm以下でしたが、1)で210 mmまで厚くなりました。2)は80 mm、3)は75 mmであり大幅に改善していますが、ここでもイソケルシトリンとタスロリムスとの同等性が明らかになりました。最後に、かゆみの指標とも言えるTARCという物質を比較しました。TARCはアレルギー反応を亢進するため、数値が上昇するとかゆみも激しくなります。また、TARCはアトピー性皮膚炎の重症度の指標とも言われています。正常群の濃度は30 pg/mLでしたが、1) 350 pg/mL、2) 180 pg/mL、3) 190 pg/mLとなりました。患者さんに最も苦痛を与えるかゆみに関しても、イソケルシトリンとタスロリムスは同等に軽減しました。

以上、アトピー性皮膚炎の主な症状である乾燥・炎症・表皮の厚さ・かゆみに関して、イソケルシトリンは優れた改善効果を示しました。既存薬であるタスロリムスと概ね同等の効果で、抗炎症作用はタスロリムスを凌駕しており、アトピー性皮膚炎の治療法に新たな選択肢が加わったと言えそうです。

キーワード: アトピー性皮膚炎、イソケルシトリン、タスロリムス、乾燥、炎症、かゆみ