ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンはフェロトーシスと炎症を抑制して、妊娠高血圧腎症を改善する

出典: Communications Biology 2025, 8, 90

https://www.nature.com/articles/s42003-025-07547-5

著者: Meiting Shi, Lu Sun, Jiachun Wei, Yao Shen, Jian Wang, Ping Zhang, Xiaofeng Yang, Yuzhen Ding, Wanchang Yin, Xinyao Lu, Xuesong Yang, Guang Wang, Ruiman Li

 

概要: 妊娠20週以降に高血圧を発症すると妊娠高血圧と呼ばれ、蛋白尿が伴うと妊娠高血圧腎症となります。妊娠高血圧腎症が重症化すると母子の両方に悪影響を及ぼし、世界で毎年4万人の妊婦さんと50万人の赤ちゃんが死亡しています。しかしながら、有効な対処法は妊娠中絶に限られているのが現状です。また、妊娠高血圧腎症の原因は不明ですが、今回の研究にて、フェロトーシスや炎症との関連が指摘されました。さらに、ケルセチンによるフェロトーシスと炎症の抑制が、妊娠高血圧腎症を改善することも示されました。

妊娠高血圧腎症の患者さん72名と健康な妊婦さん34名の胎盤を調べました。その結果、ACSL4とGPX4という2種類の蛋白質に顕著な違いを見出しました。妊娠高血圧腎症を発症すると、ACSL4は1.6倍に増え、反対にGPX4は0.4倍に減少していました。ACSL4とは、鉄が媒介するフェロトーシスという細胞死を誘導する蛋白質です。ACSL4にはフェロトーシスを抑制する働きがあります。従って、妊娠高血圧腎症の胎盤はフェロトーシスが活性化していました。そこで、フェロトーシスを媒介する鉄の濃度を調べたところ、鉄が増えると血圧も上昇する相関関係を見出しました。また、各人の血液検査のデータは、妊娠高血圧腎症になると血液中に炎症誘導物質が増え、炎症抑制物質は減ることも分かりました。フェロトーシスと炎症は、妊娠高血圧腎症の原因か結果かは不明ですが、少なくとも深く関連していることは間違いありません。

妊娠したラット26匹を、以下の3群に分けました。1) 偽手術群8匹、2) 手術+ケルセチン非投与群10匹、3) 手術+ケルセチン投与群8匹。妊娠8~13日目に、3)にケルセチン2 mg/kgを毎日投与し、1)と2)には投与しません。妊娠14日目に2)と3)に開腹手術を行い、子宮と胎盤の動脈を糸で縛った後に縫合して、妊娠高血圧腎症の状態を人工的に作りました。1)は開腹と縫合のみ行い、動脈の縛りは省略して、偽手術とします。これは、麻酔・開腹・縫合を同一の条件にしておいて、動脈縛りの有無だけが違う実験とするためです。手術から4日経過して、各種検査を行いました。

血圧は1) 105/70 mmHg、2) 150/100 mmHg、3) 105/75 mmHgでした。スラッシュの前の数値が収縮期血圧(最高値)で、後が拡張期血圧(最低値)です。尿中の蛋白質は、1) 0.5 g/L、2) 1.1 g/L、3) 0.5 g/Lでした。血圧も蛋白尿も2)で上昇しており、典型的な妊娠高血圧腎症の症状と言えますが、1)と3)とでは違いがなく、ケルセチンの投与で見事に症状が改善されました。次に、胎盤中のACSL4とGPX4の発現状況を比較しました。1)における発現量を1.0とした時の相対比はACSL4が2) 1.8、3) 0.9で、GPX4が2) 0.7、3) 1.0でした。妊娠高血圧腎症の患者さんと健康な妊婦さんで見たデータと同様に、2)ではフェロトーシスが盛んですが、ケルセチンの投与で1)と同じレベルになりました。また、データは省略しますが、血中の炎症誘導物質も同様の傾向でした。

以上、ケルセチンによるフェロトーシスと炎症の抑制で、妊娠高血圧腎症を改善しました。動物実験の段階ですが、人間にも有効ならば、冒頭に述べた計54万人の命を救えることになります。

キーワード: 妊娠高血圧腎症、フェロトーシス、ケルセチン、抗炎症作用、蛋白尿