ケルセチンは腸内細菌叢を介して、高脂肪食に起因する肥満を改善する・前編
出典: Advanced Science 2025, 12, 2412865
https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202412865
著者: Jiaqi Liu, Youhua Liu, Chaoqun Huang, Chuan He, Tongyudan Yang, Ruiti Ren, Zimeng Xin, Xinxia Wang
概要: 腸内細菌叢とは、腸に生息する細菌類の分布です。一見、腸内細菌叢と肥満とは関連がなさそうですが、実際は深く関連していることを以前述べました。今回の研究では、前回とは別のアプローチで腸内細菌叢と肥満との関連が検証され、ケルセチンが腸内細菌叢を介して肥満を改善することが示されました。
マウス40匹を10匹ずつ4群に分け、以下の条件で10週間飼育しました。1) 通常の餌(脂肪分10%)、ケルセチン投与なし、2) 通常の餌、ケルセチン100 mg/kgを毎日投与、3) 高脂肪食(脂肪分60%)、ケルセチン投与なし、4) 高脂肪食、ケルセチン100 mg/kgを毎日投与。10週間の投与期間の体重の増加は、1) 2.8 g、2) 2.8 g、3) 13 g、4) 7.0 gとなりました。投与終了時点での脂肪が体重に占める割合、すなわち体脂肪の比率は1) 6%、2) 6%、3) 28%、4) 19%でした。両者とも3)が突出した数値ですが、高脂肪食が肥満を誘発した典型的な事例と言えます。同時に注目したいのが、4)と3)との顕著な差です。これらは、ケルセチンによる肥満の抑制を端的に示しています。
各マウスの腸内細菌叢を調べたところ、4)においてアッカーマンシア・ムシニフィラ(以下、AM菌)という菌の占める割合が増加していました。AM菌とはヒトの腸内に存在して、ムチンという多糖類を分解する働きがあります。別の言い方をすれば、ムチンはAM菌の栄養源となります。さて、マウスを詳しく調べたところ、体重の増加と体脂肪は、AM菌の存在比と逆相関を示していました。すなわち、AM菌の存在比が多ければ、体重の増加と体脂肪が少ない傾向がありました。4)でAM菌の存在比が増加した事実は、体重と体脂肪の増加を抑制した結果と良好に一致しています。
ここで、ケルセチンによる肥満の抑制はAM菌を介しているのではないか?という仮説が建ちますので、次にこれを検証する実験を行いました。先程と同様に、マウス40匹を10匹ずつ4群に分け、5) 通常の餌のみ、6) 高脂肪食のみ、7) 高脂肪食、生きたAM菌を毎日投与、8) 高脂肪食、低温殺菌したAM菌を毎日投与、の4条件を10週間継続しました。10週間における体重の増加と、終了時点での体脂肪の比率は、5) 4 g, 6%、6) 17 g, 28%、7) 11 g, 19%、8) 14 g, 22%となりました。ケルセチンと同様に、AM菌を投与しても高脂肪食に起因する肥満を抑制しました。7)と8)の違いは低温殺菌の有無ですが、AM菌に含まれる有効成分が低温殺菌で減少したと解釈できます。従って、肥満の抑制にはAM菌が直接関与していることの証明となり、仮説は見事に検証されました。
以上の結果、ケルセチンの摂取が肥満の抑制に有効な理由として、腸内のAM菌を増大することが判明しました。それではAM菌が増えると肥満が抑制されるのは何故か、後編でその謎が解明されます。
キーワード: ケルセチン、肥満、体脂肪、腸内細菌叢、アッカーマンシア・ムシニフィラ