ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

イソケルシトリンとアカルボースの血糖値降下作用は、互いに打消し合う

出典: Food & Function 2025, 16, 1772-1780

https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2025/FO/D4FO06307D

著者: Umberto Lanza, Marilisa Alongi, Barbara Frossi, Carlo E. M. Pucillo, M. Anese, Maria Cristina Nicoli

 

概要: 食事で摂取したデンプンが消化されたブドウ糖は、腸で吸収され、血液で全身に運ばれて栄養源になります。栄養源として使われず血中に残る状態が糖尿病で、過剰に存在するブドウ糖が全身の組織を損傷して、悪化すると死に至ります。従って、血中のブドウ糖の濃度(以下、血糖値)を下げる薬で、糖尿病の対策をします。また、ケルセチンに糖が1個結合したイソケルシトリンにも、血糖値を下げる働きが知られています。今回の研究では、糖尿病の治療薬として血糖値を下げるアカルボースとイソケルシトリンとを組合せると、反って血糖値が上がってしまうことが発見されました。

ラットに3.6 mLのリンゴ果汁を飲ませ、その後2時間に渡って血糖値を追跡しました。飲んだ直後は5 mmol/Lで、緩やかに上昇して1時間後にピーク値の6 mmol/Lとなり、その後下降して2時間後には元の5 mmol/Lに戻りました。リンゴ果汁に含まれる糖質はショ糖と呼ばれ、2種類のブドウ糖と果糖が結合しています。このショ糖が消化され、結合が切れてブドウ糖が遊離すると、腸で吸収されて血糖値が上がります。次に、リンゴ果汁3.6 mLとアカルボース3.23 mg/kgを合せてラットに投与しました。アカルボースは血糖値を下げて糖尿病を治療する薬ですから、血糖値は下がると予想されます。しかし驚いたことに、リンゴ果汁単独時と似た血糖値の挙動を示しながらも、1時間後のピーク値は6.4 mmol/Lでした。アカルボースの投与量を10倍の32.3 mg/kgにしてリンゴ果汁3.6 mLと共投与すると、ピーク値は7.1 mmol/Lとなり、血糖値はさらに上昇しました。

リンゴ果汁には、ショ糖だけでなくイソケルシトリンも含まれています。この意外過ぎる結果は、血糖値を下げる筈のイソケルシトリンとアカルボースとが、互いの働きを打消し合っていると仮定すると説明できます。この仮説を検証すべく、腸の中をシミュレーションした実験を行いました。

Caco-2という細胞をショ糖の存在下で培養します。Caco-2は腸管と似た性質があり、ブドウ糖を吸収する上、ショ糖をブドウ糖と果糖に分解するα-グルコシダーゼという酵素を分泌します。培養1時間後にはショ糖が初期の50%となり、2時間後には30%となりました。腸の中でショ糖が消化・吸収される現象の再現です。実は、イソケルシトリンやアカルボースが血糖値を下げるのはα-グルコシダーゼを阻害して、ショ糖やデンプンが分解した麦芽糖から、ブドウ糖を発生させないためです。アカルボースを50 μMの濃度で添加した条件では、ショ糖が1時間後に75%、2時間後で55%を記録しました。アカルボースがα-グルコシダーゼを阻害するため、分解されないショ糖が培養液中に残るためです。次に、イソケルシトリン2 μMを添加したところ、1時間後のショ糖が63%、2時間後で57%となり、ここでもα-グルコシダーゼの阻害がありました。最後に、アカルボースを50 μMとイソケルシトリン2 μMを同時に添加すると45%と27%となり、何も加えない50%と30%を下回る結果でした。従って、イソケルシトリンとアカルボースとの組合せは、α-グルコシダーゼを阻害する性質を互いに打消し合っており、仮説が正しかったことを意味します。

不幸にして糖尿病に罹ってしまいアカルボースを服用する時には、薬の効きを落とさない様、リンゴと同時に飲まないことをお勧めします。

キーワード: 糖尿病、血糖値、イソケルシトリン、アカルボース、α-グルコシダーゼ、caco-2