ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ブレオマイシンの副作用である急性肺損傷は、ルチンが改善する

出典: Frontiers in Pharmacology 2025, 16, 1522690

https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2025.1522690/full

著者: Fatema S. Alatawi, Awatif M. E. Omran, Eman Rashad, Omnia N. Abdel-Rahman, Ahmed F. Soliman

 

概要: ブレオマイシンという癌の薬があります。精巣癌や転移性の卵巣癌の治療に用いられますが、強い肺毒性という欠点があります。従って、ブレオマイシンに多く現れる副作用は、急性肺損傷です。癌を治療するメリットと急性肺損傷のデメリットを天秤にかけると、生命にかかわる癌の治療が勝りますが、少しでも急性肺損傷を緩和する研究が盛んに行われています。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、ブレオマイシンに起因する急性肺損傷を良好に改善したことが発見されました。また、ルチンによる改善の仕組みも一部が解明されました。

癌の治療ではブレオマイシンを皮下注射しますが、今回の実験はラットの気管に注射液を流し込み、肺全体に行き渡らせました。その後、全部で18匹のラットを6匹ずつ3群に分け、1) ルチンの投与なし、2) ルチン100 mg/kgを毎日投与、3) ルチン200 mg/kgを毎日投与の各処置を10日間継続しました。これとは別に、ブレオマイシン処置しないラット6匹を、正常群として用意しました。投与期間が終了し、ラットの肺の状態を調べました。気管に細長いチューブを通し、生理食塩水で肺を洗浄して回収した液を分析しますが、人間と同様の検査法です。白血球の一種である好中球の量を比較します。ある組織に炎症が起こっていると、細菌に代表される異物を排除すべく、周辺組織から好中球が集まります。ゆえに、好中球の数が多ければ、炎症の深刻さを示すバロメータと言えます。回収した洗浄液中の好中球は、正常群では1万個でしたが、1)では83万個であり83倍に上昇しており、ブレオマイシンによる急性肺損傷を物語ります。2)は36万個、3)は14万個と着実に好中球が減少しており、ルチンが用量依存的に炎症を軽減しました。また、洗浄液におけるMCP-1 という炎症を誘発する蛋白質の濃度は、正常群: 60.0 pg/mL、1) 375.5 pg/mL、2) 236.0 pg/mL、3) 112.7 pg/mLとなっており、別の角度からルチンの抗炎症作用が検証されました。

次に、ブレオマイシンやルチンが肺に何をもたらしたかを知るべく、組織を直接調べました。急性肺損傷とルチンの遺伝子情報を元に、miR-9-5pというマイクロRNAの役割が予測されていました。マイクロRNAとは遺伝子の一種ですが、文字通りサイズの小さいRNAで、それ自身は遺伝子情報としての蛋白質を作る働きがありません。その代わりに、遺伝子本体であるRNAに結合して、その発現を妨害することが出来ます。今回のmiR-9-5pの場合、Nfkb1という炎症に関与する遺伝子の発現を阻害します。実際、正常群におけるmiR-9-5pの発現量を1.0とした時の相対比は1) 0.3、2) 0.5、3) 0.8となっており、ブレオマイシンが減少したmiR-9-5pの発現をルチンが回復しました。連動するNfkb1の発現比は、同様に正常群を1.0として1) 5.7、2) 4.4、3) 2.2となりました。従って、ルチンがmiR-9-5pを増大しNfkb1の発現を抑制するという予測は、実験で見事に実証されました。

以上、ブレオマイシンの副作用である急性肺損傷は、ルチンが軽減しました。癌で苦しむ患者さんの朗報となることでしょう。

キーワード: ブレオマイシン、急性肺損傷、ルチン、好中球、炎症、miR-9-5p、Nfkb1