ベルベリンとケルセチンとのイオン対による肝線維症の治療
出典: International Journal of Molecular Sciences 2025, 26, 2193
https://www.mdpi.com/1422-0067/26/5/2193
著者: Yangyang Cheng, Haoyang Yu, Sitong Yang, Xiaolian Tian, Mengyu Zhao, Ling Ren, Xiuping Guo, Chujuan Hu, Jiandong Jiang, Lulu Wang
概要: タンニン酸ベルベリンという医薬品があります。ドラッグストアで売られている多くの下痢止め薬に、有効成分として配合されています。ベルベリンが正の電荷を帯びた陽イオンとして、また、タンニン酸が負の電荷を帯びた陰イオンとするイオン対を形成して存在します。なお、ベルベリン・タンニン酸ともに、植物が作る天然物です。今回の研究では、タンニン酸をケルセチンで置換えた化合物、すなわちベルベリンとケルセチンとのイオン対が初めて合成されました。さらに、得られたベルベリン-ケルセチンイオン対(以下BQS)が、肝臓病の典型的な病態である肝組織の線維化(肝線維症、肝臓が線維状に変化して硬くなること)を改善したことが発見されました。
メチオニンとコリンの2種類の栄養成分を欠くと肝線維症を誘発することが知られており、この現象を利用した実験が行われました。マウス30匹を10匹ずつ3群に分けて、第1のグループは正常群として、通常の餌で飼育しました。第2群は病態群として、メチオニンとコリンを含まない餌を与えて肝線維症になるように仕向けました。第3群は治療群として、第2群用の餌にBQSを添加して1日当たりのBQS摂取量を190 mg/kgとなるように調節しました。
6週間の投与期間を終えて、各マウスの肝臓を調べました。I型コラーゲンは骨や歯の主成分として強度を保つ蛋白質ですが、肝臓では厄介な存在です。線維状に変化した組織はこのI型コラーゲンが核になるためで、別の言い方をすれば本来柔軟な筈の肝臓が骨のように硬くなることを意味します。実際、病態群の肝臓中のI型コラーゲンは正常群の5.8倍で、肝線維症の進行を物語ります。しかし、肝線維症を誘発する餌にもかかわらず、BQSを添加した治療群では1.8倍に抑えられました。また、肝臓に限らず組織が線維化する時には、α-SMAという蛋白質が働きます。いわば線維化の指標となるα-SMAの量は、病態群では正常群の10倍で治療群では2倍であり、BQSによる線維化の抑制効果を端的に示しています。
BQSが肝線維症の進行を抑制したので、次に肝機能を比較しました。人間と同様の血液検査を行い、ASTとALPを調べました。これらは本来、肝臓に存在してアミノ酸を作る働きをする筈の酵素ですが、肝組織が破壊されると血液に流れ出して、血中濃度が上昇します。測定されたAST値は正常群: 145 U/L、病態群: 295 U/L、治療群: 195 U/Lであり、ALP値は正常群: 195 U/L、病態群: 410 U/L、治療群: 160 U/Lでした。BQSが肝線維症を改善した結果、肝機能は正常に近づきました。
面白いことに、塩酸ベルベリン(ベルベリンが正電荷で塩化物イオンが負電荷のイオン対)とケルセチンとの混合物で同様の実験を行うと、効果が全くないか、BQSより弱いかのどちらかでした。ベルベリンとケルセチンがイオン対を形成していることが重要です。その理由として、それぞれの電荷を帯びていることが体内への吸収を促すためです。ベルベリンとケルセチンの両方が効率良く体内に取込まれて初めて、肝線維症を改善できたと考察されています。
キーワード: ベルベリン、ケルセチン、イオン対、肝線維症、I型コラーゲン、α-SMA、肝機能