ケルセチンによる潰瘍性大腸炎の治療
出典: Phytomedicine 2025, 140, 156633
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0944711325002739
著者: Qiuzhu Wei, Haixu Jiang, Jia Zeng, Jie Xu, Honglin Zhang, Enfan Xiao, Qingyi Lu, Guangrui Huang
概要: 潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に炎症が起こり、下痢・腹痛・血便を繰り返す病気です。遺伝・環境・日常生活のいずれもが複雑に関係しますが、正確な原因は不明です。軽症であればメサラジンという特効薬で治療できますが、重症化するとメサラジンを以てしても対応しきれず、潰瘍性大腸炎は難病に指定されています。今回の研究では、潰瘍性大腸炎のマウスにて、ケルセチンがメサラジンと同等の治療効果を示し、その仕組みも解明されました。
20匹のマウスを用意して、内5匹は正常群とし、他の15匹にはデキストラン硫酸ナトリウムという炎症誘導物質を投与して潰瘍性大腸炎の状態にしました。さらに5匹ずつ3群に分け、以下の処置を9日間行いました。1) 処置なし、2) ケルセチン50 mg/kgを投与、3) メサラジン227.5 mg/kgを投与。10日目に、体重の減少、便の柔らかさ、血便の状況に関して0~3でスコア化しました。すなわち異常がなければ0で、軽症なら1、中度なら2、重症なら3として、3項目を合計します。正常群は0でしたが、無処置群は6.5になりました。ケルセチン群は2.1、メサラジン群は3.8ゆえ、ケルセチンは既存薬であるメサラジンを上回る改善効果を示しました。
腸の中身を詳しく調べたところ、潰瘍性大腸炎により好中球細胞外トラップが形成され、ケルセチンとメサラジンは形成を抑制していることが分かりました。以前の連載で好中球細胞外トラップが心筋梗塞の要因となった例を述べましたが、潰瘍性大腸炎の患者さんの腸でも好中球細胞外トラップが増加することが確認されています。好中球細胞外トラップを構成する蛋白質には5種類ありますが、その中の一つにCitH3があります。無処置群の腸には正常群の2.8倍のCitH3が発現していましたが、ケルセチン群とメサラジン群では、CitH3が正常近くまで減少ました。また、他の4種類の構成蛋白質でも同様の傾向が見られました。そこで、ケルセチンとメサラジンによる潰瘍性大腸炎の治療効果は、好中球細胞外トラップの抑制に基づくのではないかという仮説が立てられました。
その仮説を検証すべく、腸に存在する芳香族炭化水素受容体の量を調べました。芳香族炭化水素受容体が活性化されると、好中球細胞外トラップの形成を抑制することが知られています。芳香族炭化水素受容体は無処置群で正常群の44%に減少しましたが、ケルセチン群は74%まで回復し、メサラジン群に至っては正常群の約2倍に増加しました。
次に好中球を用いて、芳香族炭化水素受容体と好中球細胞外トラップとの関連を検証しました。PMAとい発癌物質を好中球に作用すると、先程のCitH3の発現が8.5倍に増えて、好中球細胞外トラップの形成を誘発します。そこにケルセチンが存在すると、PMA を加えてもCitH3の発現に変化はありません。芳香族炭化水素受容体の阻害剤とケルセチンが共存する系でPMA を加えると、再びCitH3は8.5倍となり、ケルセチンの効果が打消されました。従って、ケルセチンが芳香族炭化水素受容体を活性化して、好中球細胞外トラップの形成を抑制した結果、潰瘍性大腸炎を改善した仕組みが明らかになりました。
キーワード: 潰瘍性大腸炎、ケルセチン、メサラジン、好中球細胞外トラップ、CitH3、芳香族炭化水素受容体