ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

アスペルギルス・フミガーツスに起因する真菌性角膜炎は、ルチンが改善する

出典: Experimental Eye Research 2025, 254, 110323

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0014483525000946

著者: Yuqi Li, Xue Tian, Lina Zhang, Jing Lin, Qian Wang, Lingwen Gu, Hong Li, Bing Yu, Ziyi Wang, Menghui Chi, Guiqiu Zhao, Cui Li

 

概要: 真菌性角膜炎とは、眼の黒い部分である角膜に真菌(カビ)が侵入して起こる炎症です。枝や葉で眼を傷つけた際に、植物で繁殖している真菌の感染が主な経路です。また、コンタクトレンズの不適切な使用や長期に渡るステロイド剤の点眼も、真菌性角膜炎の原因に挙げられます。症状は角膜の白濁や白目の充血ですが、放置すると失明の恐れがあるため、適切な治療が必要です。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、アスペルギルス・フミガーツス(以下、AF)という真菌に起因する角膜炎を改善しました。

AFの培養液に濃度を変えてルチンを添加すると、50 μg/mL付近で発育阻害を観察しました。50~600 μg/mLでは、濃度が高くなるにつれ発育阻害も増加する濃度依存性も確認しました。従って、ルチンがAFに抗真菌活性を有していることが間違いなく示されました。AFに限らず微生物の集合体を「バイオフィルム」と呼びますが、真菌の場合は「カビの生えた状態」として見た目で明確です。ルチンは発育の阻害に加えて、AFが形成するバイオフィルムも濃度依存的に減少しました。

AFが眼に侵入して真菌性角膜炎を発症する際には、白血球の一種であるマクロファージが活性化して炎症を誘導します。この発症の仕組みに着目して、マクロファージに及ぼすAFとルチンの影響を調べました。マクロファージには正反対の性質を示す2種類の型があり、互いに行ったり来たりしています。一つはiNOSという蛋白質が結合した炎症を誘導するM1型で、もう一つはArg-1という蛋白質が結合した炎症を抑制するM2型です。AFに感染したマクロファージは、iNOSが増加しArg-1は減少してM1型に片寄り、真菌性角膜炎の発症を試験管でも再現しました。ここに、600 μg/mLの濃度のルチン(先程の実験で示された、AFの発育とバイオフィルムを十分に阻害する濃度です)を投与しました。その結果、iNOSは約1/20に減少し、反対にArg-1は約10倍に増加しました。従ってAFがM1型に片寄らせたマクロファージは、ルチンの存在でM2型へ転換して、ルチンの抗炎症作用を端的に示しました。また、真菌が感染症を起こす時に働くデクチン1という蛋白質は、AFの感染で約2倍に増加しましたが、ルチンの投与で元に戻りました。従って、ルチンはAFによる炎症を抑制する上、感染症に関連するデクチン1も抑えることが出来ました。

ルチンの有望な性質が次々と明らかになったので、マウスを用いる実験を行いました。マウス12匹の右眼をAFで感染した後、6匹ずつ2群に分け、片方にはルチンの水溶液600 μg/mL(マクロファージの実験と同じ濃度)を1日3回点眼しました。もう片方の6匹はルチン処置をしない比較対照としました。3日後に両群を比較すると、角膜の濁りと傷に顕著な違いが見られ、ルチンによる改善効果を認めました。ルチンの点眼により、AFの総量は比較対照群の1/10に減少し、AFが上昇したデクチン1も正常化しました。

以上、抗真菌作用と抗炎症作用が有効に働いて、AF感染に起因するマウスの真菌性角膜炎にて、ルチンの有効性が見事に実証されました。

キーワード: 真菌性角膜炎、アスペルギルス・フミガーツス、真菌、ルチン、炎症、マクロファージ