加齢性腺機能低下症をケルセチンで治療できる可能性
出典: Naunyn-Schmiedeberg’s Archives of Pharmacology 2025, 398, in press
https://link.springer.com/article/10.1007/s00210-025-04022-0
著者: Xiaodong Wu, Hui Zhao, Xinshuang Huang, Peng Lu, Runqi Zhang, Qingbo Guan, Chunxiao Yu
概要: 加齢性腺機能低下症とはLOH症候群とも呼ばれる、いわば更年期障害の男性版です。加齢に伴って男性ホルモンが急激に減少にすると、精神や身体の不調を招き、性欲の減退や勃起不全を併発する場合もあります。女性の場合は閉経から5年ほど経過すると更年期障害は次第に収まりますが、男性の加齢性腺機能低下症は終わりがないのが特徴です。対処法としては、男性ホルモンを注射する補充療法が一般的です。しかし、長期に渡ると脳卒中や心筋梗塞、血栓症といった循環器疾患のリスクが増加するため、より安全な方法の開発が渇望されています。今回の研究では、老化を誘発したマウスにて、ケルセチンが男性ホルモンの分泌の低下を回復し、その仕組みも一部が解明されました。
13匹のマウスを用意して、内4匹は正常群とし、他の9匹にガラクトースという老化誘発剤を投与して老化した状態にした後、2群に分けました。老化した9匹の内5匹には毎日ケルセチン100 mg/kgを投与し、残る4匹は非投与群として比較対照としました。
4週間の投与期間が終了した後、各マウスの精巣を検査しました。代表的な男性ホルモンとしてテストステロンがあり、その95%は精巣で作られるため、男性ホルモンの分泌の老化による影響を知るには精巣を調べます。正常群の精巣組織におけるテストステロン濃度は18 ng/mLでしたが、老化モデルの非投与群では5.5 ng/mLに低下しており、加齢性腺機能低下症の主原因としてのテストステロンの著しい減少を再現しました。ところが同様に老化を誘発しても、ケルセチン投与群では19 ng/mLであり正常レベルに回復しました。精子を採取して、精子に含まれるテストステロン濃度を調べても同様の数値でした。精子は精巣で作られるため、精巣組織のテストステロン濃度が精子中の濃度に反映されました。
次に、精巣中に発現しているSTARという蛋白質を調べました。意外かも知れませんが、テストステロンの原料はコレステロールです。テストステロンを作る細胞にコレステロールを運ぶのがSTARの役目です。正常群におけるSTARの発現量を1とした時の相対比は、非投与群で0.4に低下していましたが、ケルセチン投与群は1に回復しました。従って、老化によってテストステロンが減少するのは、原料のコレステロールの供給が4割程度に減少するためです。しかし、ケルセチンの投与は、老化前と同じ供給体制を維持できることを意味します。
以上の結果、老化モデルにおいてケルセチンの投与は、加齢性腺機能低下症の根本的な要因であるテストステロンの減少を解消しています。従って、加齢性腺機能低下症をケルセチンで治療できる可能性が高まりました。冒頭に述べた補充療法の循環器疾患のリスクがケルセチンにはなく、むしろ治療する機能が最大の強みです。今後ケルセチンが治療薬になれるか、更なる展開が楽しみです。
キーワード: 加齢性腺機能低下症、ケルセチン、テストステロン、精巣、精子、STAR、コレステロール