ゲフィチニブの副作用である心筋線維化は、ケルセチンが改善する
出典: Oncology Reports 2025, 53, 57
https://www.spandidos-publications.com/10.3892/or.2025.8890
著者: Jie Zhang, Shanshan Qi, Yanyan Du, Honghong Dai, Ninghua Liu
概要: ゲフィチニブという癌の薬があります。肺癌の約85%を占める非小細胞肺癌の治療に用いられますが、強い心毒性という欠点があります。癌を治療するメリットと心毒性のデメリットを天秤にかけると、生命にかかわる癌の治療が勝りますが、少しでも心毒性を緩和する研究が盛んに行われています。今回の研究では、ケルセチンが、ゲフィチニブに起因する心機能の低下を良好に改善したことが発見されました。また、ケルセチンによる改善の仕組みも一部が解明されました。
マウス32匹を24匹と8匹で2群に分け、24匹には癌細胞を皮下注射にて移植して非小細胞肺癌を発症させました。残る8匹には癌細胞の移植をしないで、正常群としました。癌細胞の移植から14日後に24匹を8匹ずつゲフィチニブ投与群・ゲフィチニブ+ケルセチン共投与群・無投与群の3群に分けました。ゲフィチニブ投与群には1日1回、ゲフィチニブ40 mg/kgを14日間注射し、共投与群はゲフィチニブ40 mg/kgとケルセチン50 mg/kgを同時に注射しました。14日間の投与期間が終了した後、心臓に超音波を当てて画像化(心エコー検査)を行いました。なお、ゲフィチニブによる癌の治療効果は分かり切っているので、調べていません。心臓の状態だけを見ています。
心臓は4つの部分で構成されますが、その中の一つである左室は、心臓から全身に血液を送り出すポンプの役目を担っています。1回の鼓動で送る血液の体積の左室に対する割合がしばしば、心機能の指標となります。面白いことに、正常マウスと非小細胞肺癌マウスの無投与群はともに78%で同等でした。非小細胞肺癌の発症は、心機能に影響がないことを意味します。ところがゲフィチニブ群は35%に低下しており、正常ラインとされる50%を切りました。先程の理由で効果は調べていませんが、癌の治療と引換えに心不全になってしまいました。共投与群では55%に回復しており、ゲフィチニブによる心機能の低下は、ケルセチンが見事に改善しました。心臓が血液を送る際には、左室が収縮しますが、その時の収縮率も比較しました。正常群: 47%、無投与群: 47%、ゲフィチニブ群: 15%、共投与群: 29%となり、心機能の低下は左室が十分に収縮しなくなった結果でした。
一般に心筋が硬くなると、左室の収縮が鈍くなって心機能が低下するので、心筋が硬直する線維化の度合いを比較しました。線維化した心筋の割合は、正常群と無投与群では5%以下でしたが、ゲフィチニブ群は45%に上昇し、共投与群は20%まで低減できました。ゲフィチニブによる心機能の低下の本質は心筋の線維化にあり、ケルセチンで改善したのは線維化の抑制でした。
以上、ケルセチンの素晴らしい効果が明らかになりましたが、非小細胞肺癌の治療効果を全く見ていない点が何とも残念です。ゲフィチニブの治療効果に影響を与えずに、ケルセチンが心機能を改善したことを実証できれば、非小細胞肺癌の安全な治療法を確立したことになります。今後の研究の展開が楽しみです。
キーワード: ゲフィチニブ、非小細胞肺癌、心機能、ケルセチン、心筋線維化