精巣捻転による生殖障害は、ケルセチンとフィセチンとの組合せが解決する
出典: Scientific Reports 2025, 15, 12053
https://www.nature.com/articles/s41598-025-96413-9
著者: Sina Zolfaghari, Ali Soleimanzadeh, Mohammadreza Baqerkhani
概要: 精巣捻転とは、下腹部と精巣(睾丸)をつなぐ精索という管が捻じれる緊急事態です。精索は血管・リンパ管・神経が束になっており、血管の捻じれは血流が途絶えるため緊急手術を要します。精巣捻転は新生児と思春期前に見られますが、成人してからの生殖障害が最大の後遺症です。今回の研究では、ケルセチンとフィセチンとの組合せが、精巣捻転したラットの生殖障害を良好に改善しました。なお、フィセチンとは、ケルセチンと非常によく似た構造と性質を有する天然物で、イチゴに多く含まれています。
ラット40匹を32匹と8匹で2群に分け、8匹には精巣捻転をしないで正常群としました。32匹は更に8匹ずつ4群に分け、1) 無投与、2) ケルセチン20 mg/kgの単独投与、3) フィセチン20 mg/kgの単独投与、4) ケルセチン20 mg/kgとフィセチン20 mg/kgとの共投与の処置を行い、その30分後に精巣捻転しました。精索を2時間捻って精巣捻転し、元に戻した後の精巣組織を調べました。正常群と比べて無投与群の精巣は炎症が激しく、精巣捻転の悪影響が露わになりました。ケルセチン・フィセチンともに単独投与で炎症は軽減できましたが、最も炎症を抑えたのは両者を組合せた投与群でした。次に、各ラットから精液を採取して1 mL中の精子数を調べました。正常群では640万個の精子数でしたが、無投与群は230万個であり約1/3に減少しています。ケルセチン単独群の430万個、フィセチン単独群の480万個には改善が認められますが、組合せ群では570万個と正常近くまで回復しました。精巣捻転は、精子の量だけでなく質にも影響がありました。精子の生存率を調べたところ正常群: 86%、無投与群: 48%となり、生殖障害の基準値である54%を切りました。一方、ケルセチン単独群: 65%、フィセチン単独群: 72%の改善効果は、組合せ群の82%には及びませんでした。
次に、各群の8匹を同一の箱に入れて、その中に健康なメス16匹を加えて生殖障害の度合いを比較しました。正常群の8匹からは、数日以内にメス16匹全てが妊娠して妊孕率100%を記録しました。これが無投与群からは妊娠したメスは16匹中の1匹(妊孕率6.25%)で、生殖障害の深刻さが分かります。ケルセチン単独群: 6匹(37.5%)、フィセチン単独群: 5匹(50.0%)、組合せ群: 14匹(87.5%)のデータが得られました。精巣捻転に起因する生殖障害はケルセチン・フィセチンともに改善しますが、効果は組合せた時に最大化されました。従って、精子の量と質は、妊孕率が示す生殖障害に直結していました。
冒頭に述べたように、ケルセチンとフィセチンは構造と性質がよく似ています。両者を組合せた時に改善効果が著しく向上するのは、互いに作用する箇所が異なることを示唆します。しかし、その詳細は今の時点では不明であり、今後の研究の展開が楽しみです。
キーワード: 精巣捻転、ケルセチン、フィセチン、精巣、精子、生殖障害、妊孕率