ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

イソケルシトリンはSTAT3を阻害して、糖尿病性腎症を改善する

出典: Advanced Science 2025, 12, 2414587

https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202414587

著者: Chen Xuan, Donghui Chen, Shuangna Zhang, Chaofan Li, Qingyun Fang, Dinghua Chen, Jiabao Liu, Xin Jiang, Yingjie Zhang, Wanjun Shen, Guangyan Cai, Xiangmei Chen, Ping Li

 

概要: 糖尿病が膵臓以外の組織に病変をもたらした状態を合併症と呼びますが、糖尿病性腎症は、糖尿病性網膜症や糖尿病性神経障害と並んで三大合併症に挙げられます。糖尿病で血糖値が上昇して、高濃度の糖で腎組織を傷つけた結果が糖尿病性腎症です。最近、糖尿病性腎症の治療標的としてSTAT3という蛋白質が注目を集めています。ケルセチンに糖が1個結合したイソケルシトリンが有するSTAT3の働きを阻害する性質に着目して、本研究が開始されました。その結果、イソケルシトリンがマウスの糖尿病性神経障害を改善し、その仕組みも解明されました。

遺伝子操作して糖尿病を自然発症するマウスを12匹、遺伝子操作をしない正常なマウスを6匹用意しました。10週齢に達した時の血糖値を比較したところ、前者は後者の約3倍の値を記録して、糖尿病の発症が確認できました。糖尿病マウスを6匹ずつ2群に分け、片方にはイソケルシトリン120 mg/kgを毎日投与し、もう片方には投与しないで比較対照としました。12週間の投与期間が終了した後、血液検査にて腎機能を評価しました。

腎臓は血液から尿を作るの臓器ですので、老廃物が血液から尿に移行します。代表的な老廃物にクレアチニンと尿素という物質があり、これらの血中濃度を測定して腎機能を評価します。尿に存在すべきクレアチニンや尿素が、血中に残っていれば腎機能が低下しています。正常マウスのクレアチニン濃度は16 μmol/Lでしたが、糖尿病マウスの非投与群は35 μmol/Lに上昇しており、腎機能の低下すなわち糖尿病性腎症を示します。イソケルシトリン投与群は18 μmol/Lであり、腎機能は正常近くまで回復しました。また、もう一つの腎機能の指標である血中尿素値も、同様の傾向を示しました。

腎臓には老廃物を濾し取る糸球体という組織があり、いわば腎機能の中心的な存在ですが、糸球体における活性化したSTAT3の挙動を比較しました。正常マウスの糸球体では1%以下ながら、非投与群では12%であり、STAT3の活性化が糖尿病性腎症と関連している事実を確認しました。さらに、イソケルシトリン投与群の糸球体では活性化したSTAT3が2%程度であり、腎機能の改善と良好に一致しました。

最後に、ヒト臍帯静脈内皮細胞を用いる実験を行いました。同細胞を高濃度(45 mM)のグルコース(ブドウ糖)で刺激すると、細胞内の活性化したSTAT3の発現は1.5倍に上昇しました。糖尿病でマウスの糸球体でSTAT3が活性化する現象を、細胞レベルで再現しました。その後、イソケルシトリンを添加すると、グルコースが上昇したSTAT3は減少しました。すなわち、5 μMのイソケルシトリンで1.5倍が1.2倍になり、20 μMの濃度ではグルコースを加える前の1.0倍に戻り、イソケルシトリンによるSTAT3の減少は、細胞実験でも確証されました。

意外なことに、イソケルシトリンの投与ではマウスの血糖値が下がらず、糖尿病そのものは改善されませんでした。ケルセチンが糖尿病を治療した結果、付随する糖尿病性腎症も治療した話題とは対照的に、イソケルシトリンによるSTAT3の阻害はあくまでも腎機能の改善に留まります。

キーワード: 糖尿病性腎症、イソケルシトリン、腎機能、糸球体、STAT3、ヒト臍帯静脈内皮細胞