ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンと間葉系幹細胞由来のエクソソームを組合せて、変形性関節症を治療する

出典: Journal of Orthopaedic Surgery and Research 2025, 20, 373

https://link.springer.com/article/10.1186/s13018-025-05785-1

著者: Mingfeng Lu, Aiju Lou, Junqing Gao, Shilin Li, Lilei He, Weifeng Fan, Lilian Zhao

 

概要: 変形性関節症とは、関節の中の軟骨が加齢と伴にすり減り痛みが生じる病気で、世界に2億5千万人の患者がいます。残念ながら、現在の医学では変形性関節症を完全に治癒する手段がなく、薬で一時的に痛みを和らげる対処法しかありません。今回の研究では、ケルセチンと間葉系幹細胞由来のエクソソームを組合せる、変形性関節症の新しい治療法の有効性が実証されました。

間葉系幹細胞とは骨・心筋・腱・脂肪・神経・皮膚の各細胞に変化できる、一種の万能細胞です。また、エクソソームとは細胞が分泌する微小顆粒で、最近では再生医療における有力な素材として注目されています。

マウスの骨からた間葉系幹細胞を採取し、1 μMの濃度のケルセチンで24時間処置した後、エクソソームを取出して実験材料としました。更に比較として、ケルセチン処置をしない間葉系幹細胞から得たエクソソームも用意しました。軟骨組織を形成する軟骨細胞をIL-1βという炎症誘導物質で刺激すると、軟骨の形成に必要なSOX9という蛋白質が、元の半分以下に減少しました。また、軟骨組織を分解するMMP-9という蛋白質は2倍に上昇しました。変形性関節症の特徴としてSOX9の減少とMMP-9の増大が挙げられ、従って軟骨のすり減りを加速する訳ですが、同じ状態を作り出しました。ここへ2種類のエクソソームを添加したところ、SOX9の減少を回復し、MMP-9の過剰発現を是正しました。しかし、SOX9の増大もMMP-9の低減も、ケルセチン処置したエクソソームの方が良好な結果でした。ゆえに、エクソソームの改善効果を認め、その効果はケルセチン処置が増強したと結論しました。

ケルセチンとエクソソームの組合せの有効性が細胞実験で確認できたので、次に動物実験を行いました。マウス15匹分の大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯を切離して、変形性関節症のモデルとしました。その後5匹ずつ3群に分け、それぞれのエクソソーム2 μgを含む生理食塩水5 μLもしくは生理食塩水5 μLのみを患部に週に2回注射しました。これとは別に、靭帯切離しない正常マウスを5匹用意しました。8週間の治療期間を経て、変形性関節症の状態を0~5のスコアで評価します。症状が見られなければ0(当然ながら正常群は0です)で、数値が大きいと症状が深刻ですが、ケルセチン処置したエクソソーム群で1.5、通常のエクソソーム群で2.5、生理食塩水のみ群では3.3と明確な違いが現れました。また、関節を動かす時に必要なプロテオグリカンという成分の減少量は、正常群と比べて17%, 32%, 37%の順であり、ケルセチン処置したエクソソームの有効性が際立っていました。

以上、ケルセチンとエクソソームの組合せによる変形性関節症の新しい治療法が確立されました。以前、間葉系幹細胞をケルセチンで活性化した話題を取上げましたが、今回は細胞そのものではなく、細胞が作るエクソソームも活性化した点が興味深いと言えましょう。

キーワード: 変形性関節症、ケルセチン、エクソソーム、間葉系幹細胞、軟骨細胞、プロテオグリカン