ケルセチンが腸内細菌叢を介して肥満を抑制する新たな証拠
出典: Frontiers in Nutrition 2025, 12, 1574792
https://www.frontiersin.org/journals/nutrition/articles/10.3389/fnut.2025.1574792/full
著者: Jiaxin Lu, Yanting Huang, Yujing Zhang, Jiayu Xie, Qingjun Guo, Huifan Yang, Yunyan Yang, Jing Chen, Lijie Su
概要: 以前、ケルセチンによる肥満の抑制に腸内細菌叢が関与する話題を紹介しましたが、今回は新たな仕組みが発見されました。前回はアッカーマンシア・ムシニフィラという菌が肥満の改善に寄与しましたが、今回は、この菌と並ぶ典型的な善玉菌であるラクトバチルス属が登場します。ちなみに、糖から乳酸を作る乳酸菌が大部分を占めているグループが、このラクトバチルス属です。
マウス15匹を5匹ずつ3群に分け、1) 通常の餌(脂肪分10%)、2) 高脂肪食(脂肪分45%)、3) 高脂肪食+ケルセチン50 mg/kgを毎日投与の各条件で20日間飼育しました。スタート時点での各マウスの体重は22 gでしたが、4日目辺りから差が見られ始め、1) 23 g、2) 26 g、3) 24 gとなりました。10日目には差が広がり1) 24 g、2) 29 g、3) 26 gとなり、20日目には1) 26 g、2) 34 g、3) 28 gで終了しました。従って、高脂肪食による体重の増加はケルセチンが効果的に抑制しています。肥満の特徴である肝臓の脂肪蓄積(脂肪肝)もケルセチンが抑制し、肝組織に占める脂肪の重さは1) 11 mg/g、2) 24 mg/g、3) 11 mg/gでした。また、肥満の本質は、脂肪組織を構成する脂肪細胞の肥大化です。脂肪細胞の平均直径は1) 45 μm、2) 110 μm、3) 55 μmであり、ケルセチンによる肥満の抑制を端的に示すデータです。
次に腸内細菌叢を調べたところ、ラクトバチルス属は高脂肪食により減少し、ケルセチンが回復する傾向にありました。冒頭に述べたようにラクトバチルス属は乳酸を作りますが、アミノ酸の一種であるトリプトファンを他の物質に変換する働き(代謝)も特徴的です。そこで、トリプトファンの代謝物を系統的に比較したところ、IPAなる物質に顕著な違いを発見しました。血中のIPA値は1) 23 ng/mL、2) 18 ng/mL、3) 24 ng/mLであり、ラクトバチルス属の挙動を反映した結果でした。ところで、IPAとは肥満のバロメータであり、肥満の人の血中ではIPAが上昇します。
ここで一つの疑問が湧いて来ました。ケルセチンによる肥満の抑制と、血中IPAの低減とは関連があるか否かです。そこで、先ほどのマウスの実験でケルセチン50 mg/kgの代わりにIPA50 mg/kgを投与しました。その結果、ケルセチンと同様に、高脂肪食による体重の増加と肝脂肪の蓄積を抑制しました。なお、脂肪細胞の大きさに関しては、残念ながらデータがありませんでした。ゆえに、ケルセチンの投与→腸内細菌叢にてラクトバチルス属が増加→血中IPAが低下→肥満を抑制という因果関係が見事に証明できました。
ケルセチンがいくらラクトバチルス属を増やしても、原料となるトリプトファンが少なければ、作られるIPAも少なくなります。効果的に体重を減らすなら、ケルセチンと同時にトリプトファンも多く摂る必要があります。トリプトファンを多く含む食物には、大豆・卵・バナナが挙げられます。ケルセチンを多く含むタマネギやリンゴと同時に食べれば、最強のダイエット食になるでしょう。
キーワード: 肥満、ケルセチン、腸内細菌叢、ラクトバチルス属、IPA、トリプトファン