ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

治験第II相で検証された、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対するケルセチンの有効性

出典: Pharmacological Research – Natural Products 2025, 7, 100252

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2950199725001120

著者: Shivani Patel, Nathaniel Marchetti, Haleh Ganjian, Daohai Yu, Steven G. Kelsen, Gerard J. Criner, Umadevi S. Sajjan

 

概要: 慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、主に喫煙を原因とする炎症性の肺の病気で、息切れ・咳・痰が長く続きます。世界のCOPD患者数は3~4億人と推計され、死因の3位にランクされています。初期のCOPDは禁煙で治療可能ですが、ステージが進行すると気管支の拡張・ステロイド薬の吸入・酸素の吸入と言った治療が必要となり、高額な費用を強いられます。COPDの特徴として低所得の発展途上国に多いので、確実でしかも安価な治療法が望まれます。今回の研究では、喫煙者で軽度~中程度のCOPD患者さん14名を対象とする試験にて、ケルセチンの有効性が実証されました。

医薬品の承認を得るには、安全性と有効性を検証する「治験」のデータが必要です。治験には3段階あり、少人数の健康な人で安全性を検証する第I相、少人数の患者さんで有効性を検証する第II相、多人数の患者さんで有効性を検証する第III相です。今回の試験は患者さんが対象で、14名という少人数ゆえ、治験第II相に位置付けられます。

被験者14名をランダムに9名と5名の2群に分け、前者をケルセチン群としてケルセチン500 mgを含むチュアブル錠(噛み砕いて服用する薬)を1日4錠服用しました。従って1日あたり2000 mgのケルセチンの投与となりますが、この量で安全であることは既に治験第I相にて確認済みです。

残る5名は対照群としてケルセチンを含まないプラセボ(偽薬)を摂取しますが、大きさや形は統一してあり、服用時にはケルセチンの有無を判断できません。治療期間は6ヶ月で、治療の前後に気管支肺胞洗浄液を検査しました。気管支肺胞洗浄液とは、機械を用いて滅菌した生理食塩水を肺に注入した後回収した液体のことで、内容を分析して肺の状態を知ることができます。

8-イソプロスタンという物質はCOPDに罹ると上昇しますが、気管支を収縮する働きがあるため、息切れの原因と見なせます。気管支肺胞洗浄液に含まれる8-イソプロスタンの量は、ケルセチン治療で大幅に減少しました。データを統計処理した結果、ケルセチンが低減した確率が95.9%で、低減しないとする確率は4.1%でした。一般に、確率が95%以上であれば偶然起きた事象でないと判断できますので、6ヶ月間の服用でケルセチンが8-イソプロスタンを減少したと結論しました。一方、対照群では殆ど変化がなく、強いて言えば若干上昇した程度でした。治療期間が終了した後の両群を比較すると、ケルセチンが8-イソプロスタンを減少したとする確率が97.6%で、対照群が減少したとする確率が2.4%となりました。ゆえに、ケルセチンでCOPDの原因物質の除去に成功しました。

同様の傾向が、気管支肺胞洗浄液中の炎症誘導物質にも見られました。全部で4種類の炎症誘導物質を検査しましたが、内2種類はケルセチン群で有意に低減し、対照群では変化がありませんでした。ゆえに、ケルセチンの働きとして、COPDにおける肺の炎症の軽減も確認できました。

最後に医師の所見ですが、6ヶ月の治療期間でCOPDの状態が改善した被験者は、ケルセチン群9名の内7名、対照群5名の内1名でした。以上の結果、治験第II相にてケルセチンの有効性が実証されました。今後、大規模試験と呼ばれる第III相に進むと思われますが、展開が楽しみです。

キーワード: 慢性閉塞性肺疾患、ケルセチン、治験第II相、8-イソプロスタン、炎症、有効性