ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンはシスプラチンの腎毒性を軽減し、抗癌効果は増強する・前編

出典: Frontiers in Pharmacology 2025, 16, 1590688

https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2025.1590688/full

著者: Tangna Hao, Xiaokui Huo, Zhen Li, Changyuan Wang, Sha Wu, Anni Song, Fengyu Zhang, Kexin Liu

 

概要: シスプラチンという、汎用されている抗癌剤があります。幅広い種類の癌に効能効果があり、40年の販売実績があるロングセラーですが、強い腎毒性があります。使用時には腎障害を予防するため、大量の水分や利尿薬で対処します。今回の研究では、ケルセチンがシスプラチンの腎毒性を軽減しただけでなく、シスプラチンの抗癌作用を増強した一石二鳥の効果が発見されました。

ラット9匹を3匹ずつ3群に分け、1) 薬物を投与しない正常群、2) シスプラチン15 mg/kgの単独投与群、3) シスプラチン15 mg/kgとケルセチン2.5 mg/kgとの共投与群としました。薬物投与した8日後に、血液検査にて腎機能を評価しました。腎臓は血液から尿を作る臓器ですので、血液中の老廃物は腎臓で尿に移行します。代表的な老廃物にクレアチニンと尿素という物質があり、これらの血中濃度を測定して腎機能を評価します。尿に存在すべきクレアチニンや尿素が、血中に残っていれば腎機能が低下しています。正常ラットのクレアチニン濃度は40 μmol/Lでしたが、シスプラチン投与群では145 μmol/Lに上昇しており、腎機能の低下すなわちシスプラチンの腎毒性を端的に示してます。一方、ケルセチン/シスプラチン共投与群のクレアチニンは65 μmol/Lでした。もう一つの腎機能の指標である血中の尿素値も、同様の傾向を示しました。よって、ケルセチンの共投与で、シスプラチンが低下した腎機能は正常近くまで回復しました。

次に、シスプラチンの挙動を調べる実験を行いました。ラット6匹を3匹ずつ1) シスプラチン0.5 mg/kgの単独注射群、2) シスプラチン0.5 mg/kgとケルセチン2.5 mg/kgとの同時注射群の2群に分けました。先程の実験はシスプラチンで腎毒性を誘発することが目的でしたので投与量が多く、今回は挙動を見るため少ない用量です。注射直後の血中のシスプラチン濃度は、単独群が200 ng/mL、共注射群で390 ng/mLでした。注射4時間後はそれぞれ、60 ng/mLと190 ng/mL でした。この事実は、ケルセチンの共投与で、単独投与時より血中シスプラチン濃度が上昇したことを意味します。従って、ケルセチンによる腎毒性の軽減の仕組みは、シスプラチンの血液から腎組織への移行をケルセチンが抑制しているという仮説が立てられました。

そこで、仮説を検証すべく細胞実験を行いました。腎組織を構成するHEK293細胞にシスプラチンを500 μmol/Lの濃度で投与すると、24時間以内の生存率は45%で半分以上が死滅しました。この時、細胞内に取込まれたシスプラチンは950 nmol/mgでした。ケルセチンを5 μg/mLの濃度で添加したHEK293細胞では、生存率が45%から65%に向上し、シスプラチンの取込みは350 nmol/mgに減少しました。ケルセチン濃度10 μg/mLでは、生存率が68%でシスプラチンは100 nmol/mgで、仮説は見事に実証されました。

以上、シスプラチンの腎毒性はケルセチンが軽減し、その仕組みはHEK293細胞へのシスプラチン取込みの抑制でした。後編へ続く

キーワード: シスプラチン、腎毒性、ケルセチン、クレアチニン、血中濃度、HEK293細胞