ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンはシスプラチンの腎毒性を軽減し、抗癌効果は増強する・後編

出典: Frontiers in Pharmacology 2025, 16, 1590688

https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2025.1590688/full

著者: Tangna Hao, Xiaokui Huo, Zhen Li, Changyuan Wang, Sha Wu, Anni Song, Fengyu Zhang, Kexin Liu

 

前編より続く

概要: 今回の研究は、ケルセチンがシスプラチンの腎毒性を軽減し、同時に抗癌作用を増強した一石二鳥の発見です。前編で腎毒性の軽減を述べたので、後編では抗癌作用の増強を紹介します。

マウス15匹にCT26という癌細胞を皮下注射して、体積が50 mm3の腫瘍ができたことを確認しました。その後3匹ずつ5群に分け、1) 薬物を投与しない無処置群、2) シスプラチン2 mg/kgの単独投与群、3) シスプラチン2 mg/kgとケルセチン1 mg/kgとの共投与群低、4) シスプラチン2 mg/kgとケルセチン2 mg/kgとの共投与群中、5) シスプラチン2 mg/kgとケルセチン4 mg/kgとの共投与群高としました。薬物投与の期間はCT26細胞の注射から3~14日後と設定して、14日後における腫瘍の大きさと重さを比較しました。当初50 mm3であった腫瘍は、無処置群の1)にて2000 mm3に拡張しており2週間で40倍に膨れ上がりました。また、腫瘍の重さは1.2 gでした。シスプラチン単独投与群の2)は、体積が1050 mm3で重さは0.7 gでした。腫瘍の拡大を対照である無処置群の約半分に抑えた事実は、40年売れた抗癌剤の実力と見なせます。しかし、ケルセチンとの共投与は、更に良好な結果となりました。3)~5)における腫瘍の体積と重さのデータは、以下の通りです。3) 750 mm3/0.5 g、4) 550 mm3/0.4 g、5) 250 mm3/0.2 g。共投与したケルセチンの用量が増えるにつれ、腫瘍の体積も重さも減少しています。これぞ、ケルセチンが発揮した、シスプラチンの抗癌作用の増強です。

次に、前編で述べた実験と同様に、血中のクレアチニン濃度にて各マウスの腎機能を調べました。1) vs. 2)の結果は、19および75 μmol/Lでした。シスプラチンの単独投与により腫瘍の拡大を約半分に抑制したのと引換えに、クレアチニン濃度は3.9倍に上昇しました。このデータを見る限り、シスプラチンによる癌の治療と腎機能の低下は、どちらかを犠牲にするトレードオフの関係と言って過言ではありません。前編の第一の実験では、正常群とシスプラチン単独投与群とで、クレアチニン濃度は3.6倍の差がありました。対象動物がマウスとラットで違う上、シスプラチンの投与量も異なりますので、両実験の比較はあまり意味がありませんが、クレアチニン濃度の上昇は同程度でした。ケルセチンの共投与の利点を示した、クレアチニン濃度は以下の通りです。3) 58 μmol/L、4) 58 μmol/L、5) 23 μmol/L。特筆すべきは高用量のケルセチンを共投与した5)で、無処置群の1)と同等のクレアチニン濃度を達成できました。従ってケルセチンの共投与は、腫瘍の拡張抑制は最大の効果を示しながら、シスプラチン非処置と同等の腎機能を維持したことになります。

前編の冒頭で述べたように、シスプラチンの深刻な副作用である腎毒性は40年に渡る課題です。腎障害のある患者さんは、シスプラチン治療を断念せざるを得ません。今回の一石二鳥の結果は、ケルセチンが癌の治療に希望の光を与えました。

キーワード: シスプラチン、抗癌作用、ケルセチン、CT26細胞、クレアチニン、腎機能