ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

パーキンソン病の機能障害は、運動と非運動の両方ともケルセチンが改善する

出典: Behavioural Brain Research 2025, 493, 115692

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0166432825002797

著者: Maryam Yousefi, Mohammad Ali Mirshekar, Maryam Afsharfar, Saeideh Arabmoazzen, Elham Haghparast

 

概要: パーキンソン病とは、アルツハイマー病と並ぶ代表的な神経変性疾患であり、脳神経が壊れる病気です。脳神経の中でも運動を司る海馬が特に損傷するため、体のふるえ・動作の緩慢・筋肉の固縮・姿勢維持の困難と言った運動機能障害が特徴です。運動機能障害の他にも、認知機能の低下・不眠・うつ・不安の様な精神的な症状も見られます。今回の研究では、パーキンソン病のラットにおいて、ケルセチンが運動機能障害と非運動機能障害との両方を改善しました。

ラット24匹の脳に神経毒を注入して、パーキンソン病を発症しました。8匹ずつ3群に分け、1) ケルセチン投与なし、2) ケルセチン10 mg/kgを投与、3) ケルセチン25 mg/kgを投与の各処置を行いました。ケルセチンの投与期間は神経毒の注入日から4週間とし、投与頻度は1日おきとしました。これとは別に、神経毒を注入せずパーキンソン病を発症していない正常ラットを8匹用意して、比較対照としました。ロータロッド試験という方法で、各ラットの運動機能障害を比較しました。ラットを棒の上に載せ、その棒を回転させます。最初の回転速度は10 rpmに設定し、5分間で60 rpmとなるように徐々に回転を速くして、ラットが棒から落ちるまでの時間を記録します。落下時が早ければ、ゆっくりとした回転でも耐えられないので、運動機能障害の深刻度の指標となります。投与期間終了直後の結果は、正常群: 135秒、非投与群: 30秒、ケルセチン10群: 49秒、ケルセチン25群: 105秒でした。正常群と非投与群とでは4.5倍の開きがあり、パーキンソン病による運動機能障害を見事に再現しました。ケルセチンの投与量が10 mg/kgでは非投与群に近い時間で、25 mg/kgは正常群に近い値です。このような用量の違いが結果を左右する現象を用量依存性と呼びますが、ケルセチンが運動機能障害を改善した有効成分であることの証拠です。

パーキンソン病の非運動機能障害で典型的な症状である不安感は、高架式十字迷路試験という方法で比較しました。床から高さ72 cmの所に長さ51 cm、幅12 cmの道を真ん中で十字に交差させます。片方の道には高さ40 cmの壁が両側にあり、周囲が見えません。もう片方の道には壁がなく、周囲の景色が見渡せます。ラットには新しい環境に対する探索欲求があるので、習性に従えば開かれた道を好みます。一方、不安感があると高い場所に恐怖を覚えるため、習性よりも閉ざされた道が優先します。まずラットを交差点に置き、その後5分間の行動を追跡して、開かれた道に入った回数と滞在時間を比較しました。結果は、正常群: 4回/240秒、非投与群: 1回/75秒、ケルセチン10群: 2回/200秒、ケルセチン25群: 3回/240秒でした。正常群は300秒の内240秒、すなわち80%を開かれた道で過ごしましたが、これこそラットの習性を示しています。パーキンソン病による不安感は習性を失い、滞在時間は75秒(25%)にまで低下しましたが、ケルセチンが効果的に回復しました。特に25 mg/kgの投与は正常群と同じレベルであり、不安感は完全に取り除かれました。

パーキンソン病は難病に指定されており効果的な治療法が望まれます。今回の結果にて、ケルセチンは運動機能障害と非運動機能障害の両方を克服する、希望の光となりました。

キーワード: パーキンソン病、ケルセチン、運動機能障害、非運動機能障害、不安感