ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

新たに発見された、ケルセチンが糖尿病性腎症を改善する仕組み

出典: Cellular Immunology 2025, 414, 104997

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0008874925000838

著者: Abudoushalamu Abudoureyimu, Chen Chen, Yan Hu, Dilihumaer Nuermaimaiti, Tao Liu

 

概要: ケルセチンやその仲間による糖尿病性腎症の改善効果を再三紹介していますが、今回の研究では、改善する新しい仕組みが発見されました。

糖尿病性腎症の本質は、糖尿病で上昇した血糖に起因する腎組織の炎症です。そこで、白血球の一種であるマクロファージを用いて、高濃度のブドウ糖とケルセチンの炎症に及ぼす影響を調べました。マクロファージには正反対の性質を示す2種類の型があり、互いに行ったり来たりしています。一つはiNOSという蛋白質が結合した炎症を誘導するM1型で、もう一つはArg-1という蛋白質が結合した炎症を抑制するM2型です。濃度が30 mMのブドウ糖でマクロファージを刺激すると、iNOSの発現が7倍になり、Arg-1の発現は1/4となりました。ちなみに、ブドウ糖の30 mMは、糖尿病に罹った際の血糖値に近い濃度です。ブドウ糖を加えた後のマクロファージに、今度は16 μMのケルセチンを添加しました。iNOSは半分に減少し、Arg-1は2倍に増えました。従って、高濃度のブドウ糖はマクロファージをM1型に片寄らせ、ケルセチンはM2型に片寄らせる性質が分かりました。iNOSとArg-1以外の蛋白質の変化を調べたところ、高濃度のブドウ糖はNLRC5とNLRP3という2種類の蛋白質を増加し、ケルセチンはこれらを減少しました。NLRP3は炎症の大元とも言える存在で、高濃度のブドウ糖が炎症を誘導し、ケルセチンが炎症を抑制した事実と合致します。しかし、NLRC5は免疫を調節するらしいと予測されていますが、詳しい機能は不明です。

そこで、NLRC5の役割を調べる実験を行いました。遺伝子操作によりNLRC5が過剰に発現したマクロファージを作成して、同様に高濃度のブドウ糖とケルセチンを順次加えました。しかし、ケルセチンを加えてもiNOSとNLRP3は減少するどころか増加し、Arg-1は減少して、全く逆の現象でした。よって、NLRC5が直接NLRP3を活性化して炎症を誘導する、NLRC5/NLRP3経路の存在が明らかになりました。ケルセチンはこのNLRC5/NLRP3経路を抑制しますが、過剰なNLRC5が存在すると処理しきれずに、本来の抗炎症作用が打消されたことを意味します。

マクロファージで見られたケルセチンの働きを、最後にマウスで検証しました。脾臓毒と高脂肪食をマウスに投与して、糖尿病性腎症の状態を作りました。12週間に渡るケルセチン投与(100 mg/kg)の有無を、毒を投与せず糖尿病性腎症を発症していない正常マウスと共に比較しました。糖尿病の状態は血糖値を指標にし、腎機能は血中クレアチニン値で評価しました。血糖値の結果は正常群: 6.0 mmol/L、非投与群: 21 mmol/L、ケルセチン投与群: 11 mmol/Lで、クレアチニン値は正常群: 23 μmol/L、非投与群: 57 μmol/L、ケルセチン投与群: 38 μmol/Lでした。いずれもケルセチンが糖尿病性腎症を改善したことを端的に示しています。問題の腎組織のNLRC5とNLRP3ですが、両方とも非投与群は正常群と比べて上昇し、ケルセチン投与群は非投与群と比べて減少しました。腎組織のマクロファージのM1型/ M2型の構成は、正常群: 4%/19%、非投与群: 28%/3%、ケルセチン投与群: 15%/13%でした。

よって、ケルセチンがNLRC5/NLRP3経路を抑制して、M2型マクロファージを増やし、糖尿病性腎症を改善する仕組みがマクロファージとマウスの両方で実証されました。

キーワード: 糖尿病性腎症、ケルセチン、マクロファージ、M1型/M2型、NLRC5/NLRP3経路