騒音よる難聴は、そばに含まれるイソケルシトリンが予防する
出典: Food Frontiers 2025, 6, in press
https://iadns.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/fft2.70067
著者: Hojin Lee, Gahwa Jung, Guijae Yoo, Jonghoon Jung, Jae-Yong Park, Changho Lee, Jaekwang Lee
概要: 難聴には様々な原因がありますが、最も多いのが騒音で16%を占めます。耳で受取った音は、電気信号として神経を経由して脳に伝達し、脳が信号を認識した時に「音が聞こえた」状態になります。騒音による難聴とは、耳で音を電気信号に変換する有毛細胞が死滅する現象ですが、その主な要因は騒音がもたらす酸化ストレスです。今回の研究は、酸化ストレスを抑制する働きを持つ、そばとその主成分であるイソケルシトリンに着目しました。なお、イソケルシトリンとは、ケルセチンに糖が1個結合した構造を持つケルセチンの仲間です。
マウス15匹を5匹ずつ3群に分け、1) そば抽出物の投与なし、2) そば抽出物100 mg/kgを毎日投与、3) そば抽出物200 mg/kgを毎日投与の各処置を14日間継続しました。最後の3日間すなわち12~14日間目にかけて、1日に6時間、120デシベルの騒音を聞かせました。120デシベルとは、飛行機のエンジン音やロックコンサートの会場と同じレベルです。これとは別に、騒音に晒していない正常なマウス5匹を用意して、15日目に聴力を比較しました。様々な大きさの音を聞かせ、脳波の応答を調べます。音が聞こえていれば、冒頭で述べた電気信号を脳が受取った際に、脳波に変化が見られます。正常なマウスにおける脳波の応答は35デシベル以上で、聞こえる範囲の音が35デシベル以上を意味します。35デシベルはささやき声と同じ大きさで、人間もマウスも聞こえる音の限界は同じと言えましょう。1)~3)における限界値はそれぞれ、70, 45, 45デシベルでした。70デシベルはセミの鳴き声と同じで、これが聞こえる限界であれば相当な難聴です。45デシベルは図書館の中や静かな住宅地と同じレベルですので、改善効果は端的に現れました。
耳の組織を詳しく調べた結果、1)は正常と比べて活性酸素種が蓄積しており、2)と3)では正常近くまで減少していました。活性酸素種とは、活性酸素種とは空気中の酸素がより反応性の高い状態に変化した物質で、体中の組織を損傷します。聴力の根底をなす有毛細胞を過酸化水素(これも活性酸素種の一種です)で刺激すると損傷を誘発しましたが、そば抽出物の投与で改善することを確認しました。よって、騒音がもたらした活性酸素種が耳の組織(有毛細胞)を損傷すると難聴になりますが、そば抽出物が活性酸素種を減少しますので、難聴は見事に改善されました。
次に、そば抽出物に含まれる有効成分を知る実験を行いました。そば抽出物を分析した結果、主成分はイソケルシトリンで、その含量は1.5%でした。マウスの実験で有効性を示したそば抽出物の投与量が100~200 mg/kgでしたが、含まれていたイソケルシトリンは1.5~3.0 mg/kgに相当します。そこで今度は、イソケルシトリンを1および5 mg/kgの2通りで投与した同様の実験を行いました。聞こえた限界値は、前者が55デシベル、後者が50デシベルでした。各データを統計的に処理すると、前者は効果なし、後者はギリギリで効果ありと判定されました。従って、そば抽出物の実験から推定したイソケルシトリンの有効用量が1.5~3.0 mg/kgという予想と見事に一致しました。
ゆえに、騒音よる難聴を予防したそば抽出物の有効成分は、間違いなくイソケルシトリンでした。
キーワード: 難聴、騒音、そば抽出物、活性酸素種、有毛細胞、イソケルシトリン